電気自動車(EV)の開発は高電圧化への対応がトレンドだ。そこでバッテリーの直流電流を交流に変換して制御するインバーターの重要性が増している。各社は電力損失の少ない炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイスの開発と調達に力を入れている。
充電時間の短縮などを目指し、一部の高級EVで採用されている800㌾化が今後幅広い車種で進むと考えられている。パワー半導体デバイスにはこれまでシリコンが用いられてきたが、高電圧に耐え、電力損失を低減するといった性能向上が欠かせなくなった。そこで各社はSiCに注目している。独サプライヤー大手ZFは2030年には車載パワー半導体の7割近くがSiCになると見通す。
SiCの課題は製造の難しさとコストだ。シリコンと炭素の粉末状の化合物を、2千度の高温でコントロールしながら単結晶化する必要がある。製造コストはシリコンの約5倍と言われる。そのため半導体各社はコスト低減と高品質化に向けた研究開発に取り組んでいる。
自動車部品メーカーも例外ではない。三菱電機は車載機器事業の立て直しに取り組む一方、SiCパワー半導体デバイス分野に積極的に投資している。前工程での生産能力を26年度までに約5倍に増やす方針で、中長期の成長を目指す。デンソーは高品質・低損失なSiC技術「レボシック」の開発に取り組む。特定条件下での電力損失を半減以下としたインバーターを開発し、トヨタ自動車のレクサス「RZ」に採用された。
早くもSiCの争奪戦を見据えて、大手サプライヤーを中心に半導体大手と提携する動きが広がっている。ZFは米ウルフスピードと共同研究開発センターを設立する計画で、独ヴィテスコ・テクノロジーズはロームなどとサプライチェーン(供給網)構築に取り組む。日本でもニデックはルネサスエレクトロニクスとeアクスルへの搭載に向けてSiC半導体の設計で協業し、第3世代の「Xin1」の開発に取り組む方針だ。