目標達成に向けステアリング事業の業績回復は欠かせない

 2018年3月期の連結売上高で1兆円超えを達成した日本精工。ただ、その後は電動車シフトやコロナ禍などで売り上げが低迷する。再成長に向け、ステアリング事業ではフォルクスワ―ゲン(VW)との協業を決め、電動化対応では電動油圧ブレーキシステム用ボールねじをはじめとした新製品をそろえた。現行の中期経営計画「MTP2026」で1兆円企業への復活を目指す。

 18年度を最終年度とする第5次中計期間中に初めて売上高1兆円を超えた。16年3月期の売上高は9753億円。同年11月には100周年を迎えるなど、売上高1兆円達成は悲願だった。内山俊弘社長(当時)は達成に向け、自動車分野で「軸受けやAT(自動変速機)関連部品では要素技術を磨き上げ、他社との差別化を図る」と意欲を示していた。一方で「下流アシストEPSや電動ブレーキブースター用ボールねじなど、新分野の開発に注力し、能動的に提案していく」と電動化時代の事業方針を語った。

 第5次中計の最終年度となった19年3月期連結売上高は9914億円、営業利益は793億円、ROE(自己資本利益率)10・4%で着地したが、期中の18年3月期には1兆203億円の連結売上高を達成した。AT関連製品の旺盛な需要に支えられたほか、産業機械用部品も大台超えのけん引役となった。

 一方、ステアリング事業の主力製品であるコラム式EPS(電動パワーステアリング)は、先進運転支援システム(ADAS)や車重が重い電気自動車(EV)など電動車の普及で出力特性に優れる下流アシストEPSが台頭し、競争力が低下。ステアリング事業の立て直しと再成長が課題に挙がった。

 19年5月に第6次中計を発表後、同社はVWとステアリング事業における協業で合意した。21年3月にはVWのEV用モジュラープラットフォーム「MEB」向けシングルピニオンEPSの発表にこぎつけた。

 ステアリング事業のテコ入れは、内山社長から市井明俊社長へと引き継がれる。市井社長は「(ステアリング事業の再成長に向けて)パートナーを探すことは重要で、VWもその1社。他にも技術開発分野を含めてパートナーが必要だ」とし、独ティッセンクルップやジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)など複数社と精力的に協議を重ねた。

 現行の中計「MTP2026」では「ESG(環境・社会・ガバナンス)経営」「経営資源の強化」「収益を伴う成長」の3本柱で新しい姿の1兆円企業を目指す。27年3月期に売上高1兆円以上、営業利益1千億円、ROE10%が業績目標だ。

 自動車事業では、引き続きステアリング事業の競争力強化を急ぐとともに、電動車向け製品による軸受け事業の売り上げ拡大に力を入れる。成果は出始めており、軸受け事業では、26年度までに1千万本の受注を目指していた電動ブレーキブースター用ボールねじの目標達成が視野に入った。eアクスル向け第6世代「低フリクション円すいころ軸受」の引き合いも増えている。

 24年度は現行中計の折り返し地点だ。26年度の売上高1兆円以上を実現する上で勝負の年と言えそうだ。