NTNの絶縁被膜付き軸受
NTNの同軸e-Axle 遊星減速機用ニードル軸受ユニット
ジェイテクトの導電軸受の構造と搭載事例
ジェイテクトの導電軸受の構造と搭載事例
日本精工のT-HUBⅢユニット
日本精工の大型T-HUBⅠユニット

 軸受けメーカー各社が電動車シフトに備えつつある。〝機械産業のコメ〟とも呼ばれる軸受けは、自動車1台当たり最大で150個ほど使われる。ただ、エンジンや変速機用が不要な電気自動車(EV)になると「台当たりの搭載数は2~3割減る」(日本精工)との見立てがある。それでも各社は、耐電食性などの特性を持たせた「eアクスル」向けの軸受けや、電費抑制に寄与する軸受けなどの開発を急ぎ、ピンチをチャンスへと変える考えだ。

 NTNは、小型化や高出力化が進むeアクスル向け軸受けの品ぞろえを強化している。この一つとして「絶縁被膜付き軸受」をこのほど開発した。直流電流の流入によって金属が腐食する「電食」を絶縁被膜加工で防ぐ。モーター用軸受けにかかる電圧は、バッテリー電圧の1割以下と見込まれるため、EVで主流の400㌾仕様はもちろん、800㌾仕様でも十分な性能を発揮できる。膜厚を数十ミクロンとしたことで、耐電食性と放熱性も両立した。2025年にも量産を開始し、27年には年間5億円の売り上げを目指す。

 同社は「同軸eアクスル遊星減速機用ニードル軸受ユニット」も開発中だ。26年の量産を目指している。ニードル軸受け(保持器付き針状ころ)とシャフトをセットにした製品で、小型・高速回転が進むeアクスルの過酷な環境に耐え、回転性能の向上や長寿命化を図った。30年度にも年間30億円の売上高を見込む。

 ジェイテクトも、eアクスルのモーター用軸受けに導電機能を持たせた「導電軸受」を開発している。絶縁ではなく、導電部材に電気を逃がし電食を防ぐ。また、eアクスルに搭載される軸受けを幅狭化した「超幅狭軸受」も用意する。高剛性組合せ樹脂保持器をベースに保持器側面中心に穴を開け、保持器の幅を極限まで狭くした。

 日本精工では、eアクスル向けに開発した第6世代「低フリクション円すいころ軸受」の引き合いが増えている。ころ頭部と大つば部の表面粗さを改善し、摩擦を低速域で最大6割、全回転速度平均で最大2割ほど減らした。潤滑油の撹拌(かくはん)抵抗を減らそうと独自の低粘度油も用いる。次世代車への採用に向け、今後も拡販を進めていく。

 日本精工は、SUVや商用車向けの軸受けも積極的に開発している。このほど、円すいころハブユニット軸受けの第3世代と位置付ける「T―HUBⅢユニット」の開発を終え、新型SUVへの納入にこぎ着けた。今は埼玉工場(埼玉県羽生市)で生産するが、海外生産も視野に入れており26年度にはT―HUBシリーズ(Ⅰ~Ⅲ)全体の売上高を22年度比で約2倍に増やしたい考えだ。

 T―HUBⅢは、ハブシャフトと内輪を一体化し、低フリクション性を従来品よりも一段と高めた。例えばT―HUB2・5と比較して摩擦抵抗は1割ほど減り、燃費や電費の向上などに寄与する。

 商用車向けでは、大型T―HUBⅠを開発した。従来の円すいころ軸受けに対し、複列の外輪を共通化し、耐泥水性と耐デフオイル性を持つ各種シールと金属製内輪連結環で構成する。連結環の板厚と形状を最適化し、軽量化も図った。軸受けの搬送時や組み立て時、分解時に内輪同士が分離しないようにも工夫した。品質の安定化につながると見込む。

 車両1台当たりの軸受け搭載数の減少が懸念される一方で、自動車用軸受けの世界市場は拡大する見通しだ。市場調査会社のグローバルインフォメーションによると、自動車用軸受けの市場規模は23年から30年まで年平均6・4%のペースで拡大し、30年までには527億㌦(7兆8931億円)に達する。同社は「インドや中国、その他の国における(内燃機関車を含む)乗用車需要の増加が需要を押し上げる」とみる。

 ただ、中長期的な電動車シフトは避けられず、内燃機関車向けの需要に安住はしていられない。古くて新しい軸受けの開発競争は新フェーズへ突入している。

(梅田 大希)