〝トランプ関税〟が直撃し、2025年4~6月期決算が大幅赤字になったマツダ。通期の黒字確保に向け、関税対策を全社横断で進める。肝となるのが「構造的対策」(毛籠勝弘社長)だ。新型「CX―5」では仕様数を6割減らす。世界6工場での生産車種や仕向地も機動的に組み替え、米国以外の販売も増やす。抜本的な経営効率化を狙う〝毛籠流改革〟で高関税に挑む。
「通期では関税コストの60%をオフセット(相殺)して、ボトムラインの黒字を確保すべく、あらゆる手段を講じていく」。5日の2025年4~6月期決算説明会で毛籠社長はこう決意を語った。ターゲットとなるのが米国関税による通期影響の推定額2333億円だ。4~7月は27.5%、8月からは15%の税率が適用される想定で算出した。さまざまな対策を打って通期ベースで1408億円の効果を生み出し、影響の最小化に努めていく。
対策はすでに始まった。「CX―50」を生産する米アラバマ工場(トヨタ自動車との共同運営)では、5月中旬からカナダ向けの生産を止め、生産車の95%を米国向けに振り向けた。CX―50は24年秋にハイブリッド車(HV)を追加したこともあり、米国での1~6月販売は約4万7千台(前年同期比33.3%増)と好調だ。一方でメキシコ工場では「CX―30」など、利益率が相対的に低い車種の生産ペースを緩め、国内2工場でも4~6月期の生産を前年同期比1割減の約16万7千台に抑えた。7月以降は生産を徐々に増やし、サプライチェーン(調達網)維持の基準とする国内年産70万台以上を目指す。
ただ、15%の乗用車関税は、少なくともトランプ政権の向こう3年半は恒常化するとの見方が強い。従来(2.5%)の6倍の税率は同社や取引先の体力を確実に奪う。
このため、マツダは毛籠社長主導でコスト構造の改革に取り組む。改革の肝が仕様数の削減だ。例えばシートでは、素材やステッチの有無、フレームなどの部品が仕向地ごとに異なり、1車種当たり1千以上の組み合わせが考えられるという。このうち3割程度はほとんど受注がない組み合わせだとマツダは分析する。毛籠社長は「お客さんの価値につながる仕様は何かを考え、ドラスティックに減らしていく」と話す。
仕様数削減は当初、在庫の削減やサプライヤー・販売会社の負担軽減を意識した取り組みだった。しかし、米国の高関税政策により、施策の重要性は格段に高まっている。
より大きな効果が期待できるのが新型車だ。設計段階から仕様数を見直し、原価を抜本的に下げられる。今年度に投入する新型「CX―5」では、仕様数を旧型に比べ6割減らす見込み。今後の新型車も同様に仕様数を大幅に減らし、固定費や変動費の削減につなげていく。
「CX―5」はマツダの最量販車種だ。生産を担う本社工場(広島県府中町)など、国内で年間70万台の生産を保つ上でも中心的な役割を担う。
ただ、関税影響の相殺には課題も多い。マツダは15%の関税率が8月1日から適用されると見込んで影響額を算出したが、6日時点で適用時期は明らかになっていない。4~6月期は25%の関税が697億円もの減益要因になり、461億円の営業赤字を招いた。メキシコ・米国間に課せられた25%の関税の動向も見逃せない。
米国以外で販売を増やす計画もそう簡単ではない。国内は今期、前年比で9千台増の16万1千台を見込むが、直近2年は前年割れだった。期待の新型「CX―5」は26年の発売を予定。欧州も前年比3千台増の17万7千台を売る計画だが、EU(欧州連合)域内の新車販売は1~6月期、前年同期比で2割減った。収益率の高い「ラージ商品群」に積むディーゼルエンジンも、パワートレイン別で減少傾向にある。東南アジアもタイなどで需要低迷が続く。
通期の黒字想定を「取引先と一丸となり、目標達成にさらなる努力を傾注する経営の意思を示した」と毛籠社長は説明する。第1次トランプ政権時代、米国法人トップとして販売改革を断行し、米国事業を成長軌道に乗せた毛籠社長の手腕に注目が集まる。
(中村 俊甫)