現行の中計では新たな成長ドライバーの創出を目指す

 過去5回の中期経営計画を「電動化」「グローバル化」という2軸で進めてきたNOK。電動化の進展でオイルシール需要の減少は避けられず、10年以上かけて新たな可能性を模索してきた。既存技術を応用した新分野への挑戦にも意欲的だ。近年は、原材料や人件費の高騰により利益面で苦戦を強いられているが、グローバルで生産性の向上などを急ぎ、挑戦へ向けた足がかりを築きたい考えだ。

 電動化軸では、EV時代をにらんだ種まきを進めてきた。「2011~13」の3カ年中計では「10年後の(会社の)繁栄」をテーマに中計を立てた。電気自動車(EV)1台当たりの同社製品の搭載率は内燃機関車よりも減ることが必至だ。09年に三菱自動車「アイミーヴ」、10年に日産自動車「リーフ」が立て続けに投入されてEVブームが起きたこともあり、NOKにとってもEV時代をにらんだ対応が急務となっていた。

 同社は、11年頃にEVやハイブリッド車(HV)用電池の部品事業に本格参入し、防振ゴムや電極用シールなど既存製品・技術を応用した新たな部品を売り込み始めた。密封性に優れるオイルシールやOリングは、水や空気など油以外の物質にも応用できる。10年後の市場変化を見据え、長期戦でEV化に挑む方針を示した中計になった。

 電動化に伴い、戦略製品となりつつあるのがフレキシブルプリント基板(FPC)だ。11年頃はスマートフォンなど民生品向けが大半だったが、車両の電子化に伴い、18年頃にはスイッチやカーナビ関連のインフォテインメント、ライトなどでFPCの需要が増えてきた。

 20~22年度の中計では「電動化対応の準備を具体化する3年」(土井清志社長、当時)と位置づけ、インバーターやモーター、コンバーターなどEVの主力部品で拡販を進める方針を打ち出した。土井元社長は当時「FPCや燃料電池車(FCV)向けビジネスが軌道に乗れば、電動化対応製品の売上高が半分以上に達する可能性もある」と予想した。実際、同社は電池のクッションカバーやパワーコントロールユニット(PCU)、防振グロメットといった製品で量産実績を積んでおり、11~13年度中計からの取り組みは着実に実を結びつつある。

 グローバル化軸では、現地化率の引き上げに取り組んできた。ここ約10年で力を入れてきたのはアジア地域だ。11~13年度の中計期間中は、タイや中国、インドネシアのシール部品の生産拠点を拡充し、現地での生産能力を2割ほど高めた。17~19年度にはFPCを生産する中国、ハンガリー、オイルシールなどを生産するインドの拠点をそれぞれ増強した。

 最新の23~25年度中計では、EV販売が大きく伸びている中国市場に特化した研究開発(R&D)体制を整える。14年は3割程度だった海外生産比率は、足元では6割にまで高まった。

 「新たな成長ドライバーの創出」を掲げる現在の中計では、車載領域で培った技術の展開を進めている。ゴム素材を用い、心拍や脳波などのバイタル(生体)情報を測定するソリューションを医療やeスポーツへ応用していく。

 ゴム製品は、原材料やエネルギー価格の影響を受けやすく、ここ数年は利益率の落ち込みを余儀なくされた。同社は価格転嫁を含めた適正価格での受注も意識し、持続的な成長を目指す。