官民ファンドのINCJ(旧・産業革新機構)が車載半導体大手ルネサスエレクトロニクスの保有株式のすべてを売却した。2013年9月に約1390億円出資して支援に乗り出してから約10年を経て、ルネサスは完全な再建を果たした。

 ルネサスはもともと、電機メーカー大手が自社の家電製品などを半導体を使って差別化するために内製していた半導体部門が前身だ。三菱電機と日立製作所それぞれの半導体部門を分社化して経営統合したルネサステクノロジーと、NEC(日本電気)の半導体子会社であるNECエレクトロニクスが経営統合して10年に発足した。電機大手が半導体部門を本体から切り離したのは、巨額投資が必要な半導体事業が経営の重しになっていたためだ。

 設計と製造を分離する海外の半導体メーカーがコストや性能面で競争力の高い半導体を供給するなど競争が激化。さらに半導体産業は4年周期で需要が大きく変動する「シリコンサイクル」の中でも投資を継続しなければ競争力を失うという過酷な経営環境にある。国内の電機大手は半導体部門をスピンオフして専業化し、海外の半導体メーカーに対抗しようとした。

 電機大手が半導体と同様に、本体から切り離そうとしているのが自動車関連事業で、こうした動きが相次いでいる。パナソニックホールディングス(HD)は、カーナビゲーションシステムなどの自動車のインフォテインメント分野を手がけるパナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)の株式の一部を、米国の投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントに売却することで合意した。アポロはPASを持分法適用会社とする予定だ。

 パナソニックHDがPASを事実上、ファンドに売却するのは、自動車関連事業の収益が低いことが理由とみられる。PASの23年4~9月期業績は、自動車生産の回復や円安による為替換算の影響で売上高が前年同期比14%増と大幅増収となったものの、調整後営業利益率は2・4%にとどまる。パナソニックHDはテスラ向けなどの車載用電池事業や、サプライチェーン管理システム事業などを成長領域としている。電池子会社のパナソニックエナジーの調整後営業利益率は米IRA(インフレ抑制法)による補助金効果もあって9・8%だ。

 三菱電機も今年4月、カーマルチメディアをはじめとする不採算事業から撤退するなど、自動車機器事業の構造改革を推進する。三菱電機の自動車機器事業の23年4~9月期の営業損益は24億円の赤字だ。自動車生産回復に伴う販売増や、原材料高騰分の価格転嫁などの効果があったことから前年同期と比べて赤字幅が158億円改善したものの、自動車機器事業は不採算事業となっており、三菱電機全体の業績の足を引っ張っている。

 三菱電機は24年4月1日付で、自動車機器事業を「三菱電機モビリティ」に分社化する。自動車機器事業を他社や投資ファンドなどに売却しやすくすることが目的との声もある。

 電機大手が自動車関連事業を手がけてきたのは、テレビとカーナビに代表されるように、主力の家電事業の技術を自動車向けに応用できる面もあった。安全や環境対応で、自動車の電子化が加速したことに伴って電機大手の自動車関連事業は拡大、自動車メーカーも自動車用電子部品では国内の電機メーカーを頼りにしてきた。

 さらにEV(電気自動車)シフトや、ソフトウエアが自動車の価値を決めるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)を本格化するため、自動車メーカーの電機メーカーへの依存度は高まることが予想される。しかし、実際には電機大手は自動車産業と距離を取り始めている。それはなぜか。

 まず国内電機メーカーのかつて主力事業だった家電事業が、韓国や中国系企業の台頭で衰退しており、家電製品と自動車向け部用品との相乗効果も薄れている。さらに電機メーカーが懸念しているのが自動車関連事業が低収益な上に、自動車技術の急速な進化に対応するため、投資を継続しなければ生き残れなくなることだ。