EV市場は迅速な経営判断を要求

 パナソニックHDはPASを売却することについて「電動車への急激なシフトと車両のアーキテクチャーが大きく変わる中、強化が求められるソフトウエア開発や電動化への対応で長期的な成長を図るため、継続的な投資が必要」と説明、資金調達の選択肢を増やす方針を示す。三菱電機が自動車機器事業を分社化するのも「巨額投資を必要とするCASE(電動化、自動運転、シェアリング、コネクテッド)関連事業は選択と集中の上で技術シナジーが見込める良好なパートナーとの協業を模索して成長軌道に乗せる」と説明する。自動車技術の進化のスピードが早く、本業ではない電機メーカーがこれに追随することは難しくなっている。

 自動車関連事業を本体から切り離すのは経営判断を迅速化する狙いもある。自動車関連事業は経営のポートフォリオを拡充する上でも重要な事業に据えているケースもあるが、事業の利益率が低いこともあって投資の決断には慎重になりがちで時間を要する。しかし、EVの時代は経営判断に時間がかかることはビジネスチャンスを逃すことにつながる。

 EV市場で存在感を高めている中国の地場系自動車メーカーは新型車投入のペースが早く、これに対応できない部品メーカーは受注できない。こうした中国の地場系自動車メーカーの動向に引きずられるように先進国の自動車メーカーもEVの開発期間を短縮しており、サプライヤーは投資を含めた迅速な経営判断が求められる。

 電機大手のクルマ離れは、かつて自動車関連事業を成長事業に掲げてきた日立も同様だ。10月に自動車部品子会社の日立アステモの資本構成を変更して持分法適用会社に「格下げ」した。日立アステモは日立オートモティブシステムズとホンダ系部品メーカーのケーヒン、ショーワ、日信工業の4社を経営統合して21年1月に発足した。当時の出資比率は日立が66・6%、ホンダが33・4%で、日立グループが経営を主導していた。

 それをホンダが出資比率を40%に引き上げて、日立が40%に引き下げ、新たに産業革新投資機構傘下のファンドが20%出資する株主構成に変更した。社長にはホンダ前副社長の竹内弘平氏が就任するなど、事実上、ホンダが経営を主導する形となった。

 日立アステモの23年3月期の調整後EBITDA率は3・8%で、日立グループが手がける事業の中で稼ぐ力が弱い。日立は成長事業に据えるデジタルやグリーンなどの事業との関係性も薄く、日立アステモがグループのお荷物になっていた。そこにちょうど、電動車シフトを加速するホンダが手を差し伸べた。日立アステモは電動車向け部品に強いことから、ホンダは日立アステモの経営の主導権を握って電動車の競争力強化につなげる。

 クルマ離れが加速する国内の電機大手の中で、ソニーグループだけは逆に自動車事業を強化する。現在、ホンダと組んで26年に市販するEVを開発中だ。ソニーが自動車市場に参入するのは、成長領域とするエンタテインメント事業やゲーム事業との相乗効果を見込んでいるためだ。ただ、ソニーは12年にカーナビ事業から撤退するなど、自動車関連事業を他社に先駆けて見直してきた面がある。

 国内の電機大手は低い利益率、継続的な投資、競争激化などを理由に自動車関連事業を本体から切り離している。かつて電機大手が業績不振を理由にスピンオフする格好で発足したルネサスはその後、赤字続きで苦難の道をたどり、経営危機となった。最終的には官民ファンドの支援で立ち直ったが、それには長い時間を要した。

 PASや三菱電機モビリティ、ホンダが主導する日立アステモの先行きは不透明だが、大きな後ろ盾を失って自動車部品メーカーとして生き残るためには、大胆な構造改革が必要になると見られる。

 今年の「ジャパンモビリティショー2023」のパナソニックグループのブースでは、グループが手がける家電製品などとEVが融合することで「より良い暮らし」を実現する未来が紹介された。普及が見込まれるEVと電機メーカーが手がける製品の親和性は高く、本来なら自動車産業は電機メーカーが成長を確信して積極的に投資する事業にならなければならなかったはずだ。電機大手のクルマ離れが、EV時代の日本の自動車産業の競争力低下につながることが懸念される。

(編集委員 野元政宏)

(2023/12/19修正)