DACとDAC用セラミック基材のイメージ
DAC用セラミックス

 日本ガイシは、世界9カ国に持つ「触媒担体用セラミックス」の製造工場で、将来は二酸化炭素(CO2)を回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」向け角型ハニカム基材を製造する方針を明らかにした。2025年にDACの性能を実証後、30年頃には量産体制を確立させる。どちらの製品にも独自のセラミックス技術を用いるため、一定の製品競争力を維持できるとみている。電気自動車(EV)シフトが想定より遅れた場合、触媒用セラミックス基材の需要が残るため「工場の新設を検討する可能性もある」(同社幹部)という。

 同社は、自動車の排ガスを化学反応で浄化する触媒担体のセラミックス基材で米コーニングと自動車市場を分け合う世界大手だ。熱に強いセラミックス基材は、数万種類の原料を要求物性に応じて組み合わせ、焼成時の結晶構造も考慮して製造する高度な技術が必要で、日本ガイシは長年の事業経験に基づく強みを持つ。

 DACは、大気濃度0・04%のCO2を直接、回収する技術の総称で、化学反応や微生物の働き、薄膜を用いるなど数種類の手法がある。日本ガイシが目指すのは化学吸着式で、ハニカム(蜂の巣)構造のDAC用セラミック基材とCO2吸着剤の組み合わせの最適化に強みを持つ。エンバイロメント事業本部長の森潤常務執行役員は「自動車のハニカム担体技術を応用した当社のDAC用基材は、他社で先行するペレット方式より低圧損かつコンパクトで、コストも安くできる」と話す。まずは本社地区(名古屋市瑞穂区)で排ガス浄化用セラミック製品の開発・生産エリアの一部をDACなどの開発エリアに転換する。25年には他社との実証を始め、30年に量産体制の確立を目指すシナリオを描く。

 技術の確立と合わせ、世界9カ国に持つ触媒担体用セラミックスの12工場でDAC用基材の需要をにらみながら製造を検討していく。同社によると、40年以降、年間3億㍑分のDAC向けハニカム基材が必要になるという。同社が持つ排ガス浄化用セラミックス基材の生産能力の約1・5倍に当たる。

 日本ガイシは売上高の6割、営業利益の7割以上を自動車用の触媒担体や窒素酸化物(NOx)センサーで稼ぐ。排ガスを出さないEVにこうした部品は不要のため、DACのような「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」と、小型電池などの「デジタル社会」の2事業を合わせた売上高を30年に5割、50年には8割にまで増やすシナリオを描く。ただ、EVシフトが想定より遅れた場合、触媒担体やNOxセンサーの需要を満たしながらDAC用基材を新たに製造することになり、増産投資を検討する余地が残りそうだ。

 

【用語解説】DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)=大気中の二酸化炭素(CO2)を物理的または科学的に分離し、回収する技術の総称。回収したCO2は化学製品の原材料などに再利用するか、地中に貯留させる。DACの利点は植林のように広大な土地を必要とせず、空気のある場所ならどこでもCO2回収が可能なことだ。ただ、CO2の濃度が薄いため、稼働に必要なエネルギーを含め、コストを大幅に下げる必要がある。