左から西山氏、佐藤氏、成田氏
西山彰一朗氏
佐藤憲司氏
成田隆雄氏

【出席者】
 オートモールジャパン 西山彰一朗代表取締役

(第2回整備事業者アワード2023 日刊自動車新聞社大賞)

 ツカサ工業 佐藤憲司代表取締役

(第1回整備事業者アワード2022 イノベーション領域デジタルトランスフォーメーション部門賞)

 ナリタ 成田隆雄代表取締役社長

(第1回整備事業者アワード2022 イノベーション領域デジタルトランスフォーメーション部門賞)

 車載技術の進化や電動化、特定整備制度、2024年10月からスタートするOBD(車載式故障診断装置)検査など、整備業界を取り巻く環境が激変する中、整備事業各社では、人材対応や設備機器の準備、社内体制の整備などに向けて動き出している。日刊自動車新聞社が主催する「整備事業者アワード」では市場環境の変化をビジネスチャンスととらえ新たな挑戦に着手する取り組みや顧客との関係を再構築し接点強化につなげている取り組み、社会貢献の取り組みなどを募集し、整備業界の活性化、発展を目指している。第3回の公募期間が24年1月10日までと迫る中、前回までの受賞者による座談会を行った。

 

 ―整備事業者アワードに応募いただいたきっかけを教えてください

 佐藤「協賛企業や紙面で見てアワードがあることは知っていました。当社は電子保安基準適合証の取り組みが全国第1号で、早くからDXに向けた取り組みに着手していました。そういった背景もあり、支局や整備振興会の皆さんとも話す機会が多く、検査員の押印はいらないのではなど、電子化対応においてはさまざまな意見を上げ、採用いただきました。社内でもコロナ禍をきっかけにデジタルツールの導入を加速させ、利便性を高めてきました。一つひとつの取り組みが結果的にDXであり、その部分を評価していただけたのかなと思っています」

 成田「当社では私が目立つことが好きということもあり、応募ができそうなものを見つけては積極的に応募するようにしており、アワードにも応募しました。日頃の業務一つとっても、デジタルに置き換えられる部分は多く、無料のサービスの範囲内でできることがたくさんあります。そういうものを採り入れることで現場が楽になることが重要です。特定整備記録簿も手書きをやめて、時間を短縮。検査データはすべて保存し予防整備の提案に活用します。デジタルとアナログをバランスよく持ち合わせることが大事ですね」

 西山「休憩室に置いていた日刊自動車新聞を社員が目にし『申し込んだらどうか』と言われたことがきっかけです。どうせ応募するなら、狙いにいこうと。自社の取り組みについて『自分たちはこんなことを行っています』といくら言っても説得力に欠けてしまう。だからこそ社外からの評価が大事。こういった賞は働きやすい環境であることを外からも評価いただくために応募しました」

 ―女性社員、整備士の比率を高めていますね

 西山「20年ほど前から車両購入時の決定権が女性に変わりつつあることを実感する機会が増えました。われわれも営業職、整備士を採用することで女性目線を採り入れていく必要性を感じていました。ただ簡単ではありませんでした。女性整備士は、高校生にアプローチして興味がありそうな子を先生に紹介してもらい採用しました。女性の雇用を増やしたことで、女性客が増えました。女性は商品やサービスの内容よりも、感覚を大事にする傾向が強いことも分かりました。現在は22人中半分が女性です。このバランスは変えずにいきたいです」

 ―受賞後の取り組みの進ちょくや受賞後の影響、またメリットを感じたことがあれば教えてください

 佐藤「DXが一層加速しました。ICT事業部では、自社のホームページだけでなく、同業他社や地元企業のウェブサイトを制作する支援も行っています。専任者を設けることで加速しました。また、固定電話を廃止し、クラウド化。外にいても内線が取れるようにしました。工場内で電話を取り次ぐために人を探す時間はもったいない。社員全員にスマホを貸与することでその部分をクリアにし、社内の連絡事項の共有や給料明細なども送信できるようにしました」

 「受賞後に大手メディアからの取材を受けました。テック企業の一員のような取り上げ方をされ、町工場が最先端のDXを推進しているということで、注目されました。この影響は大きく、スタッフの家族からも反応があり、モチベーション向上につながったように感じます」

 西山「うちは地元メディアからの取材などはなかったです。ただ、お客さまに『もっと宣伝したら良いのに』とも言われました。社内的には受賞したことで非常に良い空気感になりました。取引先やお客さまを含め、周りから褒められるとうれしいし、プラスの効果が多くあったように感じます。当然、採用にも活用したいと考えています」

 成田「全国紙に掲載されることを重視してきましたが、皆さんのお話を聞き、われわれの仕事は99%が地元での商売ですし、地元紙、自治体が発行する広報誌、ローカルメディアへの露出も改めて考えていきたいと感じました」

 佐藤「自社の販売や整備は地元メディアが効果的ですね」

 西山「地元紙などに取りあげてもらう活動はしたほうが社員にとっても良いですよね。お客さま、地域の人から目に止まることが多い。社員視点からもアピールしたほうが良かったのかなとも思います」

 成田「現時点では売り上げに直接的な影響があるとは言えないですが、受賞をきっかけに地元メディアに取りあげられることはメリットですね」

 -整備事業者アワードは24年度内にも受賞者のネットワーク化を目指しています。どんな形、あり方を期待しますか

 佐藤「成田さんとは表彰式の前にⅩ(旧ツイッター)でつながったりと不思議なつながりが生まれました。第2回の懇親会に呼んでいただいたのも良かったです。集まることで生まれるか何かを期待したいですね。また受賞者しか参加できない日刊自動車新聞社ならではの著名人による講演会などがあればぜひ参加したい」

 西山「同業他社の取り組みが知りたいです。地域独自の活動だとか、取り組みの進ちょくだとかは興味があります」

 成田「歯医者、コンビニ、飲食店、居酒屋など他業種で流行っているものをリサーチしたり、まねができそうなものをまねをするきっかけにつながらないでしょうか」

 西山「一般消費者に伝わるような取り組みがあれば良いですよね。『居酒屋甲子園』はまさにそれ。受賞した店に行きたいとなりますよね」

 成田「整備工場は気軽ではないですからね」

 西山「気軽に来られないからこそ、これをきっかけに来てくれたらと思います。一歩目のきっかけになれば」

 佐藤「アワードの看板を掲げているところに行きたい、と選択する上での判断材料になればうれしいですよね」

 ―最後に、今後の整備業界についてどのように考えていますか

 佐藤「足元では人材確保や新技術への対応など、課題が山積しています。この業界は他業界に比べるとルールが厳しすぎると感じることもあります。われわれは車検制度のおかげで他の業種に比べると恵まれているものの、足枷(かせ)になってあれもできない、これもできないという部分はあるのではないでしょうか。取り巻く環境が変わる中、ルールを抜本的に変えることも必要かもしれません。整備士の働き方もこういうものと思い込んでいる部分もあります。その部分を変え、メカニックのあり方が変われば、働きやすい環境となり、人材不足の解消になる可能性もありますね」

 西山「各社特色があっていろいろな取り組みをしています。当社はBtoCに特化したいと考えていますが、将来的にはお客さまが車を所有しなくなる可能性もあります。お客さまとつながるという部分さえあれば、極端な話ですが、整備事業でなくても良いとも考えています。整備でなくても、自社がどこに向かっていくかが重要で、会社のビジョンとして先を見通すことを重視しています。整備業界は良くなっています。整備士が足りないということが周知され、重要さは評価されています。各社は働きやすい環境づくりを進めているし、マイナス面は少なくなっています。給料は各社の取り組み次第の部分もありますが。ただ、消費者の目線が変わらないと給料は増やせない。そこは変えていきたいですね」

 成田「あらかじめこう対処すればこの故障は予防できる、という事例がとても多いのですが、そういう対処だったり、事例を知っているかどうかが非常に重要です。予防整備が基本的な作業内容に落とし込まれていないという面もあります。車検整備と一言でいっても内容は決まりがない。店舗レベルで技術力があるかどうかが分からないのも問題です。車検整備がもっと予防に特化したものになれば、大きく変わるのではないでしょうか」

(聞き手=長谷部 万人)