本社機能がある東神奈川店

 自動車保険金の不正請求問題で経営が悪化しているビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)について、伊藤忠商事と伊藤忠エネクス、投資ファンドの3社連合が買収に向けて資産査定に入った。ただ、ビッグモーターは12月1日に、保険代理店の登録が取り消しになる。自動車保険が取り扱えないと、中古車販売会社として再生する上で足かせになる。現在の同社を「旧会社」とし、その事業を代理店登録がある「新会社」に移せば、早期に保険業を再開することはできそうだ。新会社が新しく登録する方法もある。いずれにせよ、保険業をどうするかが買収の判断にも影響するとみられる。

 金融庁は24日、ビッグモーターの保険代理店の登録取り消しを決めた。同庁の説明では、保険業法279条(登録の拒否)で、登録取り消しから3年間は保険代理店の登録ができないことになっている。このままでは同社は2026年12月まで、保険代理店の登録ができない。また、同社の株式のすべては創業家が握っている。仮に、全株式を誰かが購入しても、「法人格は変らないため、26年12月までは保険業ができない」(金融庁)のが実情だ。

 その期間中に同社で顧客が車を購入した場合、その顧客自らが保険代理店などに出向き、自動車損害賠償責任(自賠責)保険に加入しなければならないケースが出てくる。通常、販売店では顧客の利便性を高めるため、店頭で必要な保険に入ることができるように保険代理店の資格を有している。ただ、ビッグモーターでは12月以降、こうした対応が取れなくなるため、車両販売の妨げになる懸念がある。

 また、同社はピーク時には年間200億円もの保険料を取り扱っていた。この手数料収入も経営の大きな柱となっていた。同社の再生シナリオには、保険業の再開が欠かせないものとみられる。実際、和泉社長も買収成立後について、保険・金融ビジネスへの意欲を社内向けに示している。

 伊藤忠など3社連合は、24年春までに買収するかどうかを決める方針。今回のM&A(合併・買収)について、専門家は「株式売却ではなく事業譲渡が有力」とみている。事業の良い部分だけを引き受け、民事訴訟や補償問題などの「簿外債務」を切り離せるからだ。ビッグモーターの再生には、この簿外債務が最大のネックとみられているためだ。

 もし、保険代理店の登録がなされている新会社に、ビッグモーターの事業を譲渡した場合は、そのまま保険営業は続けられるのか。関東財務局の担当者は「おそらくできるのではないかと思うが、継承した会社が、保険業法上、問題ないかは調べる」としている。

 事業譲渡先の新会社が、新たに代理店登録をする可能性もある。金融庁の関係者によると、保険代理店の登録はそれほど難しくないという。契約したい損保会社を決め、その社の研修・試験を受けて契約を結ぶ。財務局への登録手続きが済めば、保険販売ができる。

 ただ、ビッグモーターについて、こうした手法が可能かどうか、金融庁側は現時点で明確にしていない。「保険業法の主旨は、登録取り消しされた業者が3年間は復帰できないということ」としており、実質的な会社の中身をみて判断するとみられる。金融庁にとっても保険代理店の登録取り消しは初めてで、「再開」の前例がなく即答できないようだ。

 ただ、同社と代理店契約を結んでいた損害保険7社はすべて、契約解除に向かっている。どの損保と契約を結べるのかも、注目されそうだ。

(小山田 研慈)