電池の回収量を増やす4Rエナジー(福島県浪江町の工場)
リサイクル事業者もEVの商品化ノウハウ蓄積を進める(イメージ)

 持続可能な電動車の社会を実現するためには、使用済み車載電池のリユースやリサイクルが欠かせない。ビジネスモデルやリサイクル技術など課題が山積する中で、重要な要素の一つが電池を回収するためのスキームの構築だ。電気自動車(EV)の量産化から10年以上が経過し、今後、使用済み電池の発生量は加速度的に増加する見通しだが、海外に一定量が流出し、国内では有効活用できていないのが現状だ。

 「最大の課題は電池の回収だ」―。フォーアールエナジー(4Rエナジー)の堀江裕社長は、使用済み電池の確保に苦心する。

 4Rエナジーは、日産自動車と住友商事の共同出資会社で使用済み電池の再販事業を手がける。年間数千個の電池を回収し、劣化度合いが異なるセル(単電池)を組み合わせ、定置用電池などとして再販する。「調整力」としての定置用電源向けの引き合いも増えており、「電池さえ集められれば黒字化の道も見え始める」(日産の担当者)という。

 経済産業省によると、一次利用として使われた車載電池のうち国内で電池として回収されるのは70%。残りの30%は車両のまま海外に輸出されている。さらに、ディーラーや中古車オークション、整備事業者などを通じて、解体事業者が国内で回収した電池も29%は海外に輸出されており、リユースできているのは31%にとどまる。

 寿命を迎えた電池は、自動車メーカーが出資する自動車再資源化協力機構の「LIB(リチウムイオン電池)共同回収システム」のスキームで無償回収しているが、一定の価値がある電池や電池材料は資源回収業者や中古品販売業者が輸出しているのが現状だ。

 そもそも電池が海外に流出するのは、使用済み電池の発生量が少なく、国内で収益化するモデルも確立されていなかったためだが、日産や4Rエナジーは再生電池の需要拡大を商機と捉え、〝回収力〟を強化する。販売会社やリサイクル関連団体と連携し、電池の流通を可視化するとともに買い取りを強化。電池をトレーサビリティー(追跡性)を確保するために車載通信機能も活用していく考えだ。

 トヨタ自動車はレクサスの新型EV「RZ」を系列販社へ下取りに出せば、車両価格とは別に電池回収の協力金(新車は20万円、認定中古車は10万円)を支払う仕組みを導入した。ハイブリッド車(HV)用のニッケル水素電池では回収やリユースのプロセスを確立したが、リチウムイオン電池でも電池を有効活用する方法を模索する。

 ただ、それでも使用済み電池の流通経路を把握し、回収量を増やすことは簡単ではない。電池サプライチェーン協議会(BASC、只信一生会長)の森島龍太執行理事(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ経営戦略部専任部長)は「仮に海外に流出しても素材のレベルで情報を取得できる仕組みづくりが重要だ」と指摘する。経産省は、車載用などの電池に関するデータを業界横断的に連携する「データ連携基盤」を24年にも実用化する。二酸化炭素(CO2)の排出量測定のほか、リサイクルに向けた電池素材のトレーサビリティー用途での活用も期待される。

 電池の回収をめぐっては「電池の寿命は技術革新で今後大幅に伸びるため、回収スキームにコストをかけるのは合理的ではない」(自動車メーカーの技術者)という見方もある。ただ、重要鉱物の調達リスクが浮上する中、海外でも電池の回収を重要視する動きが広がっている。日本は日産や三菱自動車が世界に先駆けてEVを発売したことで電池の回収やリユースの知見では一日の長がある。使用済み電池の確保に向けた官民一体の取り組みが求められる。

(水鳥 友哉)