中国で電気自動車(EV)向け交換式電池のステーション設置が進んでいる。国際エネルギー機関(IEA)の発表によると、2022年末の中国の交換ステーションの設置数は約2000カ所と21年末から2倍に増えた。主導するのは新興EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)。同社は欧州でも交換式EVの販売とステーションの設置を開始し、25年までにステーションの設置数を世界合計で4000カ所に増やす考えだ。インフラコストなどの課題は大きいものの、日本でもいすゞ自動車やホンダが実用化に向けた検討を進めている。

中国だけではなく、欧米でも

NIOは18年にステーションの整備を開始し、22年末までに中国で1300カ所に設置した。ステーションの性能も段階的に改良しており、現行のシステムは約5分で充電済みの電池に交換できる。

大容量電池を搭載した通常のEVの場合、高出力の充電器でも充電に1時間以上かかるが、交換式ならガソリンスタンドでの給油と変わらない時間で充電できる利便性がメリットとなる。さらに、車両コストの3割程度を占めるといわれる電池をサブスクリプション形式で提供することで、EV本体の初期費用を低減できる利点も大きい。NIOは23年に中国で1000カ所のステーションを新設するとともに、昨年から始めた欧州でのインフラ整備も加速するという。

交換式ステーションの展開に取り組む企業はNIOだけではない。中国でNIOに続く規模のステーションを展開する奥動新能源(Autlon)は、自社製品のオーナー向けにステーションを展開するNIOと異なり、自動車メーカー各社と連携し、幅広いブランドのEVが利用できるステーションを展開している。米国ではENEOS(エネオス)も出資するスタートアップ企業のアンプルが、ウーバーのライドシェア車両向けのステーションをサンフランシコで運営中だ。

一方、日本では、いすゞが伊藤忠商事、ファミリーマートなどと交換式電池を搭載したトラックの実証実験を22年11月に開始。ホンダは23年3月、「N-VAN」に交換式電池を搭載したコンバージョンEVを公開した。日本では二輪が中心となって普及が進み始めている交換式だが、四輪への適用も一部で検討されている。

電池の流出防止には有効

日本の自動車メーカーが交換式EVに取り組む大きなメリットになりそうなのが、電池の回収だ。ハイブリッド車(HV)やEVの電池を回収するスキームは国内にも存在するものの、電池に使用するレアメタルの相場高騰などを背景に、海外に流出している個体も少なくないといわれる。日産自動車と住友商事の共同出資会社で使用済み電池の再販事業を手がけるフォーアールエナジーの堀江裕社長は「今後の最大の課題は電池の回収だ」と電池の海外流出に頭を悩ます。

電池の回収効率を向上するためにはさまざまなアプローチが考えられる。例えば、電池の居場所をコネクテッド技術で追いかける方法。また、トヨタ自動車がレクサスのEV「RZ」で採用した下取り時に電池回収の協力金として20万円のインセンティブをEVユーザーに支払う方法も一つの手だ。

このようなアプローチの一つとして堀江社長が挙げるのが「電池だけをリースで提供すること」。電池の回収を目的にEV本体をリースで販売する手法はトヨタが「bZ4X」で実施しているが、日本では「クルマを所有したい」というニーズも根強く存在する。電池のみをリースで販売できれば、自動車メーカーは電池を管理しやすくなり、ユーザーも初期費用を抑えられるメリットがある。

ただ、日産の金融子会社である日産フィナンシャルサービスの幹部は「議論には挙がるものの、車両本体と電池の所有者を分けるような仕組みや商習慣がなく、実現には至っていないのが現状」という。加えて、ホンダでN-VANベースのコンバージョンEVの開発を担当した技術者は「今のEVでも電池のみをリース販売できれば良いが、バッテリーを脱着するための工数が大きく、現実的ではないだろう」とも指摘する。

四輪へ採用のカギは電池性能

こうした課題も交換式であればクリアしやすい。実際、ホンダが販売する交換式電池を搭載する法人向けの電動バイクの場合、車体は売り切りで、電池はリースで販売している。ホンダの幹部は「四輪でも同様のスキームができれば電池も回収しやすくなる」と話す。

しかし、交換式電池を四輪に採用して普及させるのは簡単ではない。ホンダが二輪などに使用している交換式電池「モバイルパワーパック」を四輪に使用すれば、ステーションを四輪と二輪で共通化してインフラコストを抑えられるものの、N-VANのコンバージョンEVの場合、1個あたり約10kgの電池を充電のたびに8個も積み下ろさなければならない。一方、NIOのように専用の電池を自動で交換するステーションとなるとインフラのコストは莫大だ。

とはいえ、交換式電池を搭載した四輪のEVが今後日本で実用化される可能性はゼロではない。ホンダの同技術者は「現状は使えたとしても限られた用途になるだろう。ただ、全固体電池の実用化などで電池のエネルギー密度が大幅に高まれば、四輪でも使いやすくなるはず」という。電池回収の問題や電池の技術進化などの状況次第では、交換式電池のEVが日の目を見る時が来るかもしれない。