先進技術や脱炭素化、安全保障などのキーデバイスとして世界の戦略物資となっている半導体と蓄電池は、かつて日の丸企業が圧倒的なシェアを持っていた。しかし、日系電機メーカーの衰退とともに、市場での存在感も低下した。半導体、蓄電池、そして官主導での再建に失敗したディスプレーは、日の丸企業が自前主義へのこだわりや巨額投資を継続できなかったなどの過去の失敗を踏まえ、最後のチャンスとばかりに官民連携で再興を目指す。「陽はまた昇る」ことはできるのか?

 1988年には世界シェア5割を保持していた日の丸半導体だったが、足元でのシェアは1割弱にまで落ち込んでいる。日米半導体協定による貿易規制や、電機メーカーが自前主義にこだわり、業界再編に出遅れたこともあって巨額投資を継続できず競争力が低下、米国・韓国勢にシェアを奪われていった。

 巨大半導体メーカーに対抗するため、2010年に三菱電機と日立製作所それぞれの半導体事業を分社化して統合したルネサステクノロジーは、NECエレクトロニクスと統合し、車載用マイコンに強いルネサスエレクトロニクスが発足した。

 しかし、主力とした車載向け半導体はシェアが小さく、さらにシリコンサイクルと呼ばれる価格の乱高下や在庫の増加、巨額投資が必要な技術革新のスピードに付いて行けず1千億円規模の赤字を計上するなど、業績不振が続いた。結果的に政府系ファンドの当時の産業革新機構(現INCJ)が支援に乗り出し、経営再建を進めた。工場閉鎖や人員削減などを進めた結果、経営効率化が進み、業績は順調に推移しているものの、日本の半導体シェアは低いままだ。

 半導体はデジタル社会に不可欠なデバイスで、自動車でも電動化や先進機能によって1台に搭載される半導体は増える。日系半導体メーカーがこれからシェアで巻き返すのは困難だ。そこで日本政府は補助金の投入と外資の力を借りて、日本国内で半導体を安定生産する体制を整備する。

 半導体受託製造世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)や米国のマイクロンテクノロジーが日本国内に立ち上げる半導体生産設備に政府が巨額補助金で支援する。ただ、日本政府の半導体の補助金は1兆円強のレベルで、7兆円、10兆円などの補助金を用意している米中と比べて見劣りすることは否めない。

 自動運転などで必要となる2㌨㍍級の先端半導体に関しては、トヨタ自動車やNTTなどが出資したラピダスが担う。2㌨㍍級の先端半導体を世界で初めて開発したIBMと連携、北海道で受託生産する準備を進めており、日本政府はここにも補助金で支援する。半導体の設計で日の丸企業が存在感を打ち出すのは難しいため、日本国内で先端品を含めて半導体が製造される体制を官民あげて整える。

 さらに、日系企業が高い競争力を持つ半導体材料では、新たな施策も始まった。産業革新投資機構は、半導体製造材料であるフォトレジスト(感光性材料)のシェアが世界トップで業績も順調なJSRを買収する。過去の失敗を踏まえ、経営不振に陥ってから政府が再建を支援するのでなく、戦略物資に強い企業が長期的な視点に立って投資できる体制を整えるのを支援、日系企業が高い競争力を維持できるかの試金石となる。

(野元政宏、村田浩子、梅田大希)