1990年代、液晶では日本勢が圧倒的なシェアを持っていたが、2010年代に入ると韓国のサムスン電子や台湾企業の販売攻勢によって日系家電各社のディスプレー事業の業績が急激に悪化した。大型液晶に巨額投資を続けてきたシャープは2千億円超の巨額赤字を計上するなど経営不振に陥り、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となった。

 ディスプレー事業の再建を図るため、政府も関与してソニー、東芝、日立は12年に中小型液晶ディスプレー事業を統合してジャパンディスプレイ(JDI)が発足した。また、パナソニックホールディングスとソニーグループは15年に有機EL事業を統合、JOLEDを発足した。

 JDIもJOLEDも、ディスプレー市場での巻き返しのために注目したのが車載用を含む中小型サイズのディスプレーだ。JOLEDはパソコンなどで有機ELの採用が本格化すると読み、画素を印刷技術で生成する「印刷方式」の有機ELの開発を急いだ。しかし、韓国勢が「蒸着方式」でいち早く量産化、市場を開拓していった。印刷方式は生産技術の確立に加え、コストにも課題があり、普及しなかった。

 JOLEDは第二の矢として車載向け有機EL事業に進出したが、韓国や台湾勢力に対抗するために、生産体制を整える1千億円単位の資金調達が難航、受注も増えないまま経営不振に陥った。官民ファンドのINCJが総額約1390億円を投じて支援するなどしたが、今年4月に経営破たんした。

 政府主導で立ち上がったJDIは、スマートフォンの市場動向に大きく経営が左右される状態が続いた。韓国メーカーなどとの競争も依然として激しく、厳しい経営状態が続いている。19年に債務超過に陥ってからは複数のファンドの傘下で再建に取り組んでいる。

 JDIは経営破たんしたJOLEDの有機ELディスプレー事業を取得した。これとは別に、独自開発した有機EL技術「eリープ」があり、両社の技術やノウハウを融合することで競争力の強化を図る。半導体や蓄電池に先行する形で、政府支援を受けてきた日の丸ディスプレー事業は実質、失敗に終わった。ここから独自の力で巻き返すことはできるのか。

(野元政宏、村田浩子、梅田大希)