会見するエリック・ジョンソンCEO

 半導体素材大手のJSRは、官民ファンドの産業革新投資機構による買収を受け入れると27日までに発表した。同社は半導体素材事業を成長領域と位置づけ、M&A(企業の買収・合併)を含めた事業の拡大を目指していた。政府系ファンドの傘下となることで、国際競争力を強化するとともに、国内半導体業界の再編を主導したい考えだ。

 26日の同社取締役会において、全会一致で買収受け入れを決議した。同機構の完全子会社、JICキャピタル(JICC)が12月下旬にもTOB(株式公開買い付け)を始める。JICCはJSR株を1株あたり4350円で買い付け、総額は9千億円強となる見込み。TOBが成立すれば上場廃止となる。JSRは各事業を成長させた後、5~7年後をめどに再上場を目指す。

 同社は、半導体素材事業とライフサイエンス事業を成長事業と位置づけ、両事業の営業利益を2025年3月期までに600億円以上とする目標を掲げている。特に半導体素材事業はフォトレジスト(感光性材料)を中心にトップシェアを誇るが、次世代技術の開発など、成長に向けた大型投資の必要性に迫られていた。海外勢が合併やM&Aで投資余力を確保する中、国内メーカーでは競争力強化に向けた動きが鈍かったことも買収受け入れの背景にあるという。エリック・ジョンソンCEO(最高経営責任者)兼社長は26日に開いた会見で、「業界再編に向けた機運を高めたい」と語った。

 同社は国策会社、日本合成ゴム(当時)として創業。以来、コア事業だった合成ゴム事業を22年4月までに石油元売り大手エネオスに売却している。自動車業界には現在もABSといった合成樹脂を中心に供給しており、ジョンソンCEOは買収を契機に「すべての事業で価値を創出できる。投資をさまざまなプロダクトへ振り分けていくことができる」と語った。

 JICCは、国内産業の国際競争力強化などを目的に、民間企業への投資を進めている。傘下企業を通してジャパンディスプレイやルネサスエレクトロニクスなどにも出資しているほか、今年3月にはホンダと日立製作所が出資する日立アステモにも資本参加し、20%の株式を保有している。