トヨタ自動車の佐藤恒治新社長は7日、経営方針を発表した。電気自動車(EV)の競争力を急ピッチで高めつつも、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)など多様なパワートレインを全方位で展開する「マルチパスウェイ」を堅持する。地域に適した電動車の普及を図り、2035年にトヨタ・レクサス車のウェル・トゥ・ホイール(油井から車輪まで)ベースでの二酸化炭素(CO2)排出量を35年に19年比半減させる。また、クルマと社会インフラを連携させ新たな価値を生み出す「トヨタモビリティコンセプト」も打ち出し「モビリティカンパニー」への変革を加速させる。
佐藤社長は「商品で経営するのが、クルマ屋・トヨタの一丁目一番地だ」と述べ、電動車の商品強化に向けた具体策を説明した。EVでは、30年までに世界販売を350万台とする目標に向け、26年までに10モデル投入し、年間販売150万台とする中間目標を掲げた。EVの普及が進む米国では25年に3列シートのSUVタイプのEVを現地生産し、25年に稼働するトヨタ・バッテリー・マニュファクチャリング・ノースカロライナ(TBMNC)の生産能力も増強する。中国では、24年までに現地開発のEV2種を投入する方針だ。
26年以降に投入する次世代EVの開発に向けて、専任組織を新たに立ち上げる。開発や生産工程は従来の2分の1に短縮して原価低減に取り組む一方で、航続距離は従来の2倍を目指す。
中嶋裕樹副社長は、PHVの「EV航続距離」を200㌔㍍とするなど、EV以外の商品力強化策を示した。現在のEV走行距離は105㌔㍍(プリウスPHV)だ。
97年の初代「プリウス」からシステムの原価が6分の1となったHVは、新興国を中心に普及を加速させる。宮崎洋一副社長は、ガソリン車とそん色ない収益力を持つHVを普及させることで「事業基盤を一層強固にする」と話し、電動化で着実にCO2を削減するとともに収益力を維持する考えを示した。
新たに打ち出したトヨタモビリティコンセプトでは、独自開発するソフトウエア基盤の「アリーン」でクルマの価値を広げるなど、3つの段階で社会システムと連携を進めていく方針だ。
今回の方針発表は、社長交代発表から2カ月、社長就任からわずか1週間後というタイミングだ。自動車産業の変化が加速する中で、経営判断のスピードを上げている。佐藤社長ら首脳陣が会見で繰り返した「マルチパスウェイ」を堅持し、各地域でフルラインアップの競争力を高めていくことができるか注目される。