極限の走りを追求した「コンセプトAMG GT XX」
リアウインドーを配するなど空力を徹底追及
減速時に開口する「アクティブエアロホイール」
リアの発光パネルでメッセージを発信
シート表皮は植物たんぱくを使用
宅配ピザの箱よりもコンパクトな「アキシャルフラックスモーター」
駆動ユニット、バッテリーの配置図

 独メルセデス・ベンツは、高性能電気自動車(EV)のコンセプトモデル「コンセプトAMG GT XX」を発表した。合計3基の新型モーターで前後輪を駆動する四輪駆動車で、最高出力は1千㌔㍗超。これを空気抵抗係数(Cd値)=0.198という空力特性が非常に優れる車体に搭載して、最高時速360㌔㍍のスーパーカーに仕上げた。高電圧バッテリーとその温度管理にはフォーミュラワン(F1)マシンの開発で得たノウハウを活用するなど、同社最先端の自動車技術をフル導入して、極限の走りを追求した。

 同社のEV事業は、販売台数が計画を下回り苦戦が続く。特に中国では価格、仕様の両面で現地新興メーカーの後塵を拝している。

 こうした中、創業140年近くの歴史を誇る自動車メーカーである同社の威信をかけて、圧倒的なパフォーマンスを誇る実走可能なコンセプト車を製作。動力や空力、操縦性など車両の基本性能を磨く技術が現在もトップレベルにあることを改めてアピールするとともに、5分間の急速充電で400㌔㍍の走行を可能にするなど、次世代のEV技術を具体化した。ブランド価値の向上にむけた意気込みが垣間見られる。

 この新しいコンセプト車は、同社グループの高性能ブランド、AMGが今後発売する4ドア量産スポーツカーの開発における先進技術プログラムと位置付ける。

 同社グループでチーフデザインオフィサーを務めるゴーデン・ワグナー氏は「当社は『C111』(1969年~)『ビジョン・ワンイレブン』(2023年)などの実験車やコンセプト車を通じ培った知見を生かして、時代を象徴する数々のヒット車を創作してきた。『GT XX』ではメルセデスのデザイン哲学『官能的純粋さ』という〝ホット〟な側面を体現した」と述べ、究極の走りを追及したモデルであることを強調した。

 その特徴の一つが、前輪側に1基、後輪側に2基配置した新型モーター「アキシャルフラックスモーター」だ。英国のモーター専門会社、YASAが基本技術を持つもので、メルセデスは同社と市販車向けを共同開発している。銅線の断面を長方形にして巻き線密度を高めるなど工夫し、既存モーターの3分の2のサイズ・重量で同等な出力を確保した。宅配ピザの箱よりもコンパクトなサイズという。駆動電圧は800㌾以上。各モーターに高効率な炭化ケイ素(SiC)製の直流・交流変換器(インバーター)を配置する。

 同モーターの製造には100種の工程が必要で、このうち35工程はレーザー接合など世界初の技術という。完全に油分と埃(ほこり)のない状態が必要な接続工程があるなど、非常にデリケートな生産管理が必要だが、人工知能(AI)を駆使した画像認識技術によって対応にめどをつけた。

 バッテリーは、モータースポーツのノウハウを用いてゼロから新設計した。セル形状は、高負荷時の放熱性に優位な縦長の円筒形にした。セルはフルタブ構造として内部抵抗を減らし、充放電特性を改善した。正極にはNCMA(ニッケル/コバルト/マンガン/アルミニウム)、負極にはシリコンを含む素材を使用。これらによりエネルギー密度を重量ベースで300㍗時/㌔㌘に高めた。コンセプト車はこのセルを3千個以上搭載する。

 バッテリーハウジングは、軽量で放熱しやすいアルミ製で、レーザー溶接を使い組み立てる。冷却は油冷式で、配管を最適化してセルを均等に冷やせるようにした。車体構造材の一部として活用される。

 充電は850㌔㍗以上の急速充電に対応する。ガソリン給油と同等の時間で同様な距離を走行できるレベルの速さとする。

 車体はアルミ、鋼材、繊維複合材を適所に使用して軽量化と剛性の両立、高度な衝突安全の実現を図った。フロントノーズが低く、ルーフが後部に向かいなだらかに傾斜するファストバック形状の4ドアクーペのデザインにまとめた。そしてリアウインドーを廃止したり、車体表面を平滑な形状とすることで、Cd値=0.2を切る空力特性につなげた。滑空するワシと同じくらい低い空気抵抗という。リアウインドーの廃止は、デジタルミラーの活用で可能になったとみられる。

 その上でアンダーボディーの形状を工夫して空気の流れを適格に制御し、時速360㌔㍍の超高速域でも良好な操縦安定性の確保につなげた。

 ホイールには減速時、リムの縁に配置した5枚のブレードが開口部を作り、ブレーキに冷却気を送る機構「アクティブホイール」を搭載。世界初の特許技術とする。

 「MBUXフルード・ライト・ペイント」という特殊な導電塗料を利用して、微弱な電流で車体表面を発光できるようにした。これにより周辺車両などに「減速中」「充電中」などの車両状況を視覚的に伝えることができる。

 さらにテールランプの間には700個以上のLEDランプで任意の文字やアニメーションを表示できる発光パネルを設置。通常は「AMG」のブランドロゴを掲出するが、状況に応じて「充電中」などのサインを具体的に発信できる。発光車体と合わせてユニークな活用が見込まれる。

 室内では、表皮材に世界初となる植物たんぱく質ベースのレザー代替素材を採用する。レーシングカー廃タイヤのリサイクル材も組み合わせた素材だ。ステアリングホイール脇のパドルで回生ブレーキの強度を制御できるなど、ドライバーが走りの味付けを調整できる機構を充実した。前席は、乗員の体形に合わせた形状のパッドを3Dプリンターで製作。レースカーづくりと同様なおもてなしでオーナーの満足感を高める考えだ。