軽オフロードの名車、スズキ「ジムニー」のすべてがわかる場所が神奈川県藤沢市にある。「ジムニー歴史館」だ。ジムニーのカスタムパーツ開発を手掛けるアピオの会長、尾上茂(おのうえ・しげる)さん(76)による私設博物館。晴れた日は、一部ガラス張りの館内から丹沢の大山や富士山が見える。そのままジムニーを駆って林道に向かいたい気分になる。
ジムニー歴史館は2018年夏にオープンした。藤沢市北部の県道45号沿いにある。2階建ての白い四角い建物。初期から最近のモデルまで26台が並んでいる。車のほかにシャシーが2台分。オブジェ風の車体が1台ある。
茂さんが1981年に最初に買った「SJ30」は1階の奥にある。友人に薦められたのがきっかけだ。茂さんが車体前方の下部を指さしながら言った。「このリーフスプリング、僕がつくったんですよ」。
当時買ったばかりのジムニー、実は乗り心地がいまひとつ好みではなかった。改善しようと自らパーツを企画・開発したのだ。製造を大手ばねメーカーにお願いしたが門前払いに。何度か頼み込んでやっと実現した。これがジムニーユーザーに引っ張りだこになり、大ヒットとなった。今のアピオの原点といえる。
「普通の車はコイルのスプリングの方がいいけどオフロードだとリーフスプリングのほうが柔軟性があって乗り心地がいいんだよ」。
後席の足元が狭かったので、座席のスライド部品も作った。
「ジムニーは楽しい車なんですよ。いじればいじるほどいろんなことができる」「不便だとか乗り心地が悪いとか、だからこそ受けたんですよ」。
その一方で、「実はね、私はあまり山を走るのは好きじゃないんだ。車に傷がつくからね」と車体をわが子のようにいたわる心遣いもみせた。
かつて輸出されたエンジン排気量800ccのジムニーのトラック「LJ81」もある。茂さんが豪州にいった時にたまたま牧場でみつけた。珍しいのでオーナーに「売って」とお願いしたがだめだった。
知人に頼んで豪州の中で他の車がみつかった。しかし、日本に届いてみたらボロボロだった。錆穴を埋めるために板金するなど尾上さんが自らレストアした。その後、北海道まで走ったという。車内の密閉性を高めるため窓枠をアルミで強化した。
歴史館内の説明では、茂さんが昔のことをなかなか思い出せない時は、妻のちづ子さんが代わって解説してくれる。かなり詳しい。「こんな(私設博物館)の商売だったら(コスト的に)やってられないよ」と茂さんがいうと、ちづ子さんはうなずきながらも「でも、できる限り続けていきたいね」と返す。なかなか素敵なコンビだ。
館内には、茂さんが参加したレースの写真も飾ってある。パリ~ダカールラリーには9回参加して3回完走した。ラリーの経験をまとめた著作も置いてあり、けっこう売れるという。台湾、シンガポールからくる人も多い。
茂さんは自動車ディーラーで働いていたが、22歳の時に独立して整備工場を立ち上げた。その後、ジムニーに出会った。専用の部品をつくり改造をしているうちにそれが本業となっていった。1988年にジムニー専門店オノウエ自動車を設立、2002年に「APIO(アピオ)」に社名変更した。「Auto Parts Import Onoue」の頭文字をとったものだ。
ジムニー歴史館の開館日は木曜日から日曜日まで。開館時間は4月から10月が午前10時~午後5時、11月から3月が午前10時~午後4時。入館料として1人1千円の寄付をいただいている。
▽所在地=神奈川県藤沢市用田2140▽電話=0466-90-3011
(小山田 研慈)