富士経済(清口正夫社長、東京都中央区)が発表した炭素繊維複合材料の世界市場予測によると、2035年に21年実績と比べて2・6倍の3兆7776億円になると予想する。熱硬化性樹脂を含侵するCFRPの世界市場は同2・5倍の3兆4707億円、熱可塑性樹脂を使用するCFRTPが同5・5倍の3069億円に拡大すると予想する。30年までに自動車の燃費規制が強化されるため、CFRTPは自動車分野での採用拡大を見込む。

 CFRPは主に航空機で採用されている。生産性やコストがネックとなって自動車での採用はスーパースポーツモデルなどの一部にとどまっている。素材メーカー各社は、重量が航続距離に影響する電気自動車(EV)向けでのニーズが本格化することを期待し、量産技術の開発やコスト低減に向けた取り組みを加速している。

 CFRTPはCFRPに比べ成形加工時間を大幅に短縮でき、リサイクル性も高いことから、自動車向けの研究開発が進められている。

 炭素繊維複合材料の採用が見込まれる自動車エンジン周辺向けには、加工のしやすさに加え、高い耐熱性や強度が求められる。また、EVのバッテリー周辺向けには難燃性が求められる。CFRPはこれらの特性がトレードオフの関係にあるため、素材メーカーはこれらのニーズを満たす材料開発に注力している。

 三菱ケミカルホールディングスグループでは、フェノール樹脂を用いたCFRPを開発している。従来のCFRPの特性である高熱伝導性や高剛性などに高耐熱性を加えることで自動車向けでの採用拡大を狙っている。

 航空機向けCFRP市場シェアが高い東レは、難燃性と力学特性の両立を実現した。マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用し、CFRPの設計評価期間の短縮に成功して25年をめどに実用化する計画だ。

 帝人はCFRPに使用する新たな炭素繊維織物を開発した。独自技術によって薄肉化やCFRPに成形した際の強度の安定性を両立するという。

 21年の自動車用途向けの炭素繊維複合材料の世界市場は655億円だった。素材メーカー各社は自動車での採用拡大に向けて、自動車に適した材料開発を本格化していることから、35年には5・7倍の3703億円に成長すると予想している。

 短期的には静電部品や摺動部品などで採用が増え、中期的には燃費規制に対応するための軽量化ニーズから、自動車部材や部品で採用が増加すると予想する。

 また、圧力容器向けでは炭素繊維複合材料を強化材として使用するタンクで、燃料電池車(FCV)用や水素ステーション用の高圧水素タンク、車載用・輸送用の圧縮天然ガス(CNG)タンク向けが伸長すると予想する。

 富士経済では「世界的な電動車シフトで二酸化炭素(CO2)排出量の低いCNG車やFCVが普及する」と想定、35年には圧力容器用途が21年実績比5・3倍の3653億円に拡大すると予想する。中長期には、トラックやバスでCNG車やFCVが普及することを見込み、車載タンク向けが伸長する。その後、乗用車でも普及し、35年以降の市場拡大につながると予想している。