トヨタ博物館(愛知県長久手市)のクルマ館2階に16日、自動車産業の歴史を紹介する「クルマづくり日本史」コーナーがオープンした。自動車メーカー各社や日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)などの協力のもと、自動車産業史を扱う国内で例を見ない展示施設だという。同博物館が常設展示をオープンするのは、2019年に「クルマ文化資料室」ができて以来、3年ぶりとなる。
展示のテーマは「日本の自動車産業はいかに生まれたか」。20世紀初頭の自動車産業黎明期から、1970年代の産業基盤確立期まで約70年の歴史を「ヒストリーロード」「物語」「人物」「系譜」「数字」という5つの視点でひも解く内容だ。中央の「ヒストリーロード」に設けられた「動く年表」には、歴史を学ぶ上で重要な出来事が投影され、全体の流れをつかむのに役立つ。知りたい内容に自らアクセスできるタッチパネルや4面の大型スクリーンなど、展示内容に合わせてさまざまな見せ方が採用されている。
「クルマづくり日本史」の名の通り、展示内容はトヨタ自動車に関することにとどまらない。国内の主要自動車メーカー12社や関連企業が史実の確認・資料提供などで協力したほか、国立科学博物館や自工会も協力団体に名を連ねる。組織の垣根を越えた制作体制を取ることで、日産コンツェルン創設者の鮎川義介氏と豊田喜一郎氏の経営姿勢を比較するなど、興味深い展示を実現した。企業史だけではカバーしきれない俯瞰的な解説も特徴だ。欧米から立ち遅れていた自動車産業が日本を代表する産業に育つまでには、リスクを取ってクルマづくりに飛び込んだ先人の努力に加え、国の保護や支援もあった。展示では「自動車製造事業法」(1936年)をはじめとする産業政策とその影響も紹介。関東大震災で鉄道に代わって自動車が台頭したことなど、歴史の転換点と自動車産業のつながりにも触れている。
トヨタ自動車学芸グループの鳥居十和樹担当課長は企画の背景として、来場者から「なぜ日本の自動車産業はここまで大きくなったのか」と問われるケースが増加したことを挙げる。「(問いに対して)通史的に説明するツールを持ち合わせていなかった」(鳥居課長)ことに加え、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)、MaaS(サービスとしてのモビリティ)など、「100年に1度の変革期」のタイミングもあいまって、自動車産業の歴史を知り、未来を考える場所として展示企画が立ち上がった。
初期構想から足掛け4年でオープンを迎えた。コロナ禍の影響も受けたが、人数を絞って面着で展示手法を検討するなどして、ダイナミックな展示物を完成させた。鳥居課長は「多くの方に展示を楽しんでいただき、自動車業界で働く人たちには自分たちの産業の歴史を知っていただきたい」と語る。
見学後はクイズ形式の「ワークノート」で復習も可能。自動車メーカー関係者からは「ぜひ新入社員研修に取り入れたい」との声もあるという。自動車業界を志す人のスタートラインとして、ベテランが原点に立ち返る場所として、同博物館の新たな人気スポットとなることだろう。