ピンチをチャンスとして

 自動車メーカー各社は今後、挽回生産を本格的に進める方針だが、工場で働く人員の確保も重要となる。これは自動車メーカー自体ではなく、中小規模のサプライヤーが直面する課題だ。

 コロナ禍による業績悪化で、希望退職の募集など、人員の適正化を図る部品メーカーも多かった。自動車メーカーの挽回生産に対応するため増員に動いたとしても、他業界も含め獲得競争が激化しているため、必要な人数を確保できない状況も想定される。人手不足がサプライチェーン寸断につながる可能性も否定できない。自動車メーカーと部品サプライヤーは新たなリスクにも迅速かつ的確に対応することが求められている。

 今回の半導体不足は改めて自動車メーカーがサプライチェーンの強靭化を検討する契機にもなった。

 ホンダは半導体の持ち方や長期契約を含めた購入方法見直しなど、半導体サプライヤーとの関係性を含めた戦略的なサプライチェーンの検討を進める。今後も不足が予想される半導体を安定的に確保できる体制を構築する構えだ。

 日産自動車はルノーと三菱自とのアライアンスで世界的な半導体不足に対応する。自動車だけでなく非自動車の分野も含めて需要動向を予測して準備するとともに、ティア1やティア2だけでなくサプライチェーンの末端までつながりやすくする。「今回は危機だが、これをチャンスと捉える」(日産のアシュワニ・グプタCOO)とし、ビジネスの手法を考え直す機会と位置付ける。

 スバルは半導体の在庫積み増しの検討を進めているほか、今後の開発車については部品の共用化や流通量の多い半導体を使用することも視野に入れる。

 マツダの丸本明社長は半導体不足を一番のリスクと捉え、「最も大事なことはリスクを想定した経営を行い、危機レベルに合わせた対応を迅速に実行すること」と強調する。

 半導体は世界全体でひっ迫し、改善には向かっているものの、当面は不安定な状況が続く見通しだ。状況が目まぐるしく変化する中で、正確な情報をつかみ、適切に対応することが重要となる。

可能な限り選択肢を拡大

 自動車メーカーでは政府が掲げる50年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現に向けた取り組みが今後、本格化する。各社が新車販売の100%電動化や電気自動車(EV)の事業戦略について、明確な時期を示しながら方針を打ち出している。

 カーボンニュートラルは車両走行時だけでなく、原材料の調達や工場での製造、完成車の輸送、廃棄・リサイクルという各段階において、二酸化炭素(CO2)排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の観点でCO2削減を進めることが重要となる。自動車メーカー各社では自社内でCO2排出量削減の活動を推進しているだけでなく、取引先のサプライヤーに対してもCO2削減目標の提示を求めているほか、サプライヤーの組織である部品協力会に対してカーボンニュートラルに関する勉強会やセミナーを実施している。

 ただ、内燃機関や変速機など既存の部品を手がけるサプライヤーにとって、急速な車両電動化は将来的にビジネスが失われる可能性もあり、不安を抱く企業も多い。自動車メーカーはサプライヤーが持つ技術や製品を電動車両に活用する方法を一緒に模索するなど、脱炭素化に向けてサプライヤーの意識改革を促すとともに、全面的な支援にも乗り出している。

 日本の自動車メーカーはカーボンニュートラル社会の実現に向け、EVだけでなく、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の開発にも注力し、バイオマスや合成燃料などカーボンニュートラル燃料や水素エンジン車にも領域を広げている。可能な限り選択肢を増やし、自動車業界で働く550万人の雇用を維持する構えだ。