2035年までの全乗用車をゼロエミッション車に切り替える方針を示すGMのメアリー・バーラCEO

 4日、決算会見に臨んだステランティスのカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は「内燃機関にこれ以上、投資するつもりはない」と言い切った。同社のほかゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、ジャガー・ランドローバー、ボルボ・カーズなど、エンジンからの〝卒業〟を宣言する自動車メーカーが相次ぐ。100年以上の歴史を持つエンジンは、その役割をついに終えるのか。

 世界的なカーボンニュートラルへの流れは電気自動車(EV)への注目を集め、主要国の政府はアメとムチで電動化シフトを自動車メーカーに求める。金融市場も「ESG投資」で後押しし、EVシフトを宣言したメーカーの株価が上昇するパターンが定着。国やメーカーによっては、ハイブリッド車(HV)さえ〝過去の遺物〟扱いする風潮が漂う。排ガス浄化用の触媒を手がけるサプライヤーの首脳は「言われるほどEVが普及するとはとても思えないが、世間にそう公言はできない」と苦笑する。

 しかし、足元の風景は異なる。日本勢のHVは世界で需要が拡大。HV市場のおよそ8割をトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車の3社が占める。車両の製造から廃棄までの環境影響を評価するライフ・サイクル・アセスメント(LCA)を前提にしても今のところHVは優勢だ。オーストリアのエンジニアリング企業であるAVLによると、欧州の電源構成(エネルギーミックス)で計算した場合でも、15万㌔㍍走らせないと「EVがHVより二酸化炭素(CO2)排出が少ない」とは言えないという。EV政策を推し進める中国当局も昨年、ガソリン車と同一視してきたHVを優遇対象にし、35年には新車販売の50%にまで普及させる方針に転換した。

 早稲田大学の大聖泰弘名誉教授は、EV効果を最大化するには「再生可能エネルギーが優先的に使われる場所を考えなくてはいけない」と指摘する。さらに電力の安定供給やリチウム、コバルトなどの資源確保、充電網整備と自律的な運営、廃バッテリーのリサイクル制度づくりなど、車両以外にも解決すべき課題が多く残る。EVシフトを表明するメーカーが相次ぐにも関わらず、各種の調査機関による30年時点のEV比率(乗用車)は依然として全体の15~20%ほどで〝上方修正〟の動きは今のところない。EV普及が加速するほど、前述の課題が顕在化するからだ。

 傘下の「ミニ」をEV専用ブランドにするBMW。しかし、オリバー・ツィプセ社長は「エンジンにも未来はある」と話す。フォルクス・ワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長もエンジンの販売を継続する意向を示している。ディーゼル排ガス不正問題でつまずいた欧州勢だが、自動車のLCA規制を仕掛けて電池や部品産業の再誘致を目論む一方、合成燃料などエンジンの未来にも目配りするなど、官民で複数のシナリオを周到に練っている。

 材料や熱力学、流体力学、計測、制御などさまざまな学問を応用するエンジンの開発。〝すり合わせ〟が必要なサプライチェーン(供給網)も含め、いったん開発や量産を止めると〝再起動〟は容易ではない。逆に言えば、将来、液体燃料が持つエネルギー密度の高さが再評価され、エンジンが必要となった場合に残存者利益を享受できる可能性がある。また、EVの自律的な普及を待っていては「50年カーボンニュートラル」を実現する前に、気温の上昇幅はパリ協定で目標に掲げる1・5度を超えるとの見方もある。当面の主役であるHVやプラグインハイブリッド車(PHV)に積まれるエンジンもさらに効率を上げる必要性もある。

 エンジン部門の研究者たちは今、熱効率の極限に挑みCO2削減を図る一方で、排ガスを出さない「ゼロインパクトエミッション」を目標に研究開発を進め始めた。ハードルは高いが、決して空想や絵空事ではない。日産の専務取締役で自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)理事長を務める平井俊弘氏は「新しいものが出てきた時、往々にして新しい方が勝っている。しかし、そういう流れがあるから既存技術は粘ろうとものすごい進化が起きる」と語った上で、こう問いかける。「エンジンは必ずゼロエミッションになるのになぜなくす必要があるのか?」

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 かつてない逆風が吹きつけるエンジンだが、研究者や開発者は熱効率の向上や「カーボンニュートラル」に意欲を燃やす。エンジンの過去を振り返り未来を探る。