パジェロは三菱自の看板車種だった

 三菱自動車が27日、新しい中期経営計画を発表した。「パジェロ」などを製造する子会社のパジェロ製造の閉鎖や欧州市場からの事実上の撤退などリストラを加速する一方で、ベトナムに新工場の建設を計画するなどASEAN(東南アジア諸国連合)に事業を集中する。ただ、新卒採用の抑制や希望退職制度による人員削減、研究開発費の削減など、将来の成長の種にも踏み込む。頼りにしているアライアンスの活用も今一つ不鮮明で、大きな変革期を迎えている自動車業界の中で競争力の低下は避けられないとの見方が広がる。

 「三菱自動車が全方位の拡大戦略を取り続けることは現実的ではない」―。三菱自の加藤隆雄社長兼CEOは中期経営計画発表の電話会議で、事業を得意分野に絞り込み、不採算事業を見直す方針を示した。何度も閉鎖が噂されながら生産機種の追加などで延命を図ってきたパジェロ製造は21年上期中に稼働を停止して閉鎖することを決定。海外向けパジェロの生産は終了し、「アウトランダー」「デリカD:5」は岡崎製作所に移す。国内完成車拠点を2カ所に集約することで、国内工場の稼働率は19年度の76%から22年度には83%になる見通しだ。

 欧州事業ではニューモデルの投入を凍結する。現在販売しているモデルとアフターサービスで事業は継続するものの、現地の排ガス規制強化に伴って、これに適合しないモデルから順次販売を取り止める方針で、事実上、欧州市場から撤退することになる。国内販売体制でも直営ディーラーの不採算店の統廃合を進めるほか、競争原理を導入した販売奨励金システム・マージン体系に見直す。

 固定費削減のため人員も減らす。新規採用の抑制や希望退職制度を実施する計画で、削減規模は明らかにしていないものの、従業員の報酬制度の見直しを含めて間接員の労務費を3年間で15%削減するなど「不退転の決意でコスト構造改革に取り組む」(加藤CEO)方針だ。

 一方で、高収益で成長が見込まれるASEANには事業を集中する。タイで「アウトランダーPHEV」を現地生産・販売するほか、ベトナムでは新たに「エクスパンダ―」を生産するのに加え、新しい工場を建設する。生産・販売体制を拡充してASEAN市場での販売を22年度には19年度比3割増となる37万5千台に増やす計画だ。得意分野に経営資源を集中することで、規模は小さくても収益力の高い自動車メーカー。これが中期経営計画で掲げた「スモール・バット・ビューティフル」の姿だ。

 この実現に向けて今後2年間、固定費削減を徹底し、21年度から収益力を向上する「U字回復」を描くが、不安が残る。将来技術の種となる研究開発費は19年度が1309億円だったが、22年には990億円に削減する。自動車業界がCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)に象徴される変革期にある中、今後、先進技術が自動車メーカーの販売と業績を大きく左右すると見られており、自動車各社は業績が悪化している中でも高水準の研究開発投資を続けている。

 三菱自では、自動運転やコネクテッド、電気自動車(EV)についてはアライアンスを組む日産自動車やルノーの技術を活用する方針だが、スムーズに連携できるのかは疑問だ。実際、中国市場に投入する新型EVについては日産ではなく、現地生産パートナーである広州汽車と共同開発することを決めた。注力するASEAN事業やアフリカ、南アジア、南米の各事業の強化では、販売分野を中心に三菱商事との連携を強化することを打ち出した。

 三菱自は、リコール問題や燃費不正問題などで多くのエンジニアが退職した。業績回復の道のりには「選択」と「集中」による経営の立て直しがやむを得ない面もあるが、開発費削減や報酬制度見直しもあって技術者の離職が加速し、先進技術の開発が遅れて競争力が低下するリスクをはらんでいる。

(編集委員 野元政宏)