保釈中にレバノンに逃亡した日産自動車の元会長のカルロス・ゴーン被告は1月8日15時(現地時間)、現地で記者会見し「公正な裁判を受ける機会がゼロだった。何が何でも有罪という人達に囲まれていた。公正な裁判を受けるのは日本では無理だった」ことが海外に逃亡した理由と述べた。

ゴーン被告は「地獄のような体験」「弁護士が立ち会うことなく1日8時間尋問された」「検察官から自白しないなら追及し続けると言われ、終わりの見えない日々を過ごした」など、取調べや「人質司法」を強く批判。「私の起訴には根拠がない」とした上で、自身が逮捕されたのは「アライアンスを不可逆的にすることに関して信頼が得られなかったため」と述べ、「日産と検察が共謀」したクーデターとの見方を改めて示した。

これに関わった主要な人物として前社長の西川廣人氏、社外取締役の豊田正和氏、前副社長の川口均氏、元監査役の今津英敏氏の名前を挙げた。日本政府関係者も関与したとしながらも、滞在しているレバノン政府が困惑するとして人物の明言は避けた。海外への逃亡方法についてもは「言えない」と、明らかにしなかった。出入国管理法違反で協力者に捜査の手が及ぶことや、逃亡に協力したと見られているレバノン政府への影響を懸念したためと見られる。

ルノーと日産の不可逆的な関係については持株会社の傘下に日産とルノーを置いて、事業会社の本社もそれぞれ日本とフランスに置き、独立性を維持する方式を検討していたことを明らかにした。また、ゴーン被告はフィアットクライスラーオートモビルズ(FCA)とのアライアンスを交渉していたことも明らかにした。最終的な取り決めの会合の前に逮捕され「大きな機会を失った」(ゴーン被告)と述べた。FCAはゴーン被告が逮捕された後の2019年5月にルノーと経営統合交渉入りで合意したが、FCAがフランス政府の介入を嫌って破談となった。FCAは2019年11月にグループPSAと経営統合することで合意した。

海外に逃亡したことについてゴーン被告は「正義を求めての行動であって、逃げたのではない。名声を取り戻すための行動」と説明。レバノンで「数週間以内に嫌疑を晴らす証拠を開示したい」と述べた。

さらに業績不振に陥っているアライアンスについては「成長も利益も消滅している。方向性も分からず、技術革新もなくなっている。成功できるはずが、間違った方向に進んでいる」と、日産やルノーの経営陣を批判した。

ゴーン被告は退職後に受け取る役員報酬を有価証券報告書に記載していなかった金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)、日産の資産を不正に使っていた会社法違反(特別背任罪)で起訴され、2019年4月に保釈されていた。保釈の条件として海外渡航は禁止されていたが、不正に出国し、2019年12月31日に「私はレバノンにいる」との声明を発表、日本の刑事司法制度を批判していた。

森まさこ法務大臣は、ゴーン被告が日本を出国した記録はないことが判明しており「不法に出国したものと考えられ、このような事態に至ったことは誠に遺憾」とコメント。ゴーン被告が日本の刑事司法制度を批判していることについては「個人の基本的人権を保障しつつ、事案の真相を明らかにするために適正な手続を定めて適正に運用されており、保釈中の被告人の逃亡が正当化される余地はない」としている。

東京地検は同日、ゴーン被告の記者会見について「被告が犯罪に当たり得る行為をしてまで国外逃亡したもので、今回の会見内容も自らの行為を不当に正当化するものにすぎない」とコメント。ゴーン被告が強く抗議したキャロル夫人との接触制限についても、夫人が日産の資金の還流先の関係者で、事件関係者に口裏合わせを行うなどの罪証隠滅行為が原因で「自身の犯した事象を度外視して一方的に日本の刑事司法制度を非難するゴーン被告の主張は日本の刑事司法制度を不当におとしめるものであって到底受け入れられない」と批判した。

ゴーン被告が主張した日産と検察による共謀については「不合理であり全く事実に反している」と一蹴。「ゴーン被告は日本の法を無視し、処罰を受けることを嫌い、国外逃亡したもので、当庁はゴーン被告に日本で裁判を受けさせるため、関係機関と連携してできる限りの手段を講じる」としている。

ゴーン被告の保釈は取り消され、保釈金15億円は没収された。日本政府の要請に基づいて国際刑事警察機構(ICPO)はゴーン被告の赤手配書を発行した。ただ、日本はレバノンと犯罪人引渡し条約を結んでいないため、ゴーン被告の身柄を確保するのは難しい。

一方、日産は1月7日に「日産の社内調査で判明したゴーン被告の不正行為について責任を追及するという基本的な方針は、今回の逃亡によって何ら影響を受けるものではない」との声明を発表。日産関係者は「恥の上塗り」と、ゴーン被告の記者会見の影響はないとの見方を示す。また、ゴーン被告の不正で日産が被った損害賠償を請求する方針も示した。レバノンにある日産とルノーの合弁会社の資産であるゴーン被告の住宅も退去を求めていく方針。