アーリーンを使ってアジャイル開発
VRシミュレーターを使って自動運転のユーザーエクスペリエンスをテスト

TRI-ADではIT分野のソフト開発で主流となっている「アジャイル開発」を導入する。アジャイル開発は、おおまかな仕様や要件だけを決めて実装とテストを繰り返す開発手法で、開発途中の仕様変更や仕様の追加にも柔軟に対応でき、開発期間を大幅に短縮できる。スマートフォン向けのソフトやアプリ開発では、技術の進化が早いため、開発途中に仕様が変更された場合でも柔軟に対応できるアジャイル開発が採り入れられている。

TRI-ADは、アジャイル開発の中でも、チームがソフト開発プロジェクトを管理する「スクラム」型を採用しており、8人で構成するチームがソフトの実装とテストを繰り返す。チーム内のコミュニケーションが重要になるため、オフィスのデスクはハニカム構造のレイアウトを採用している。

また、TRI-ADはアジャイル開発をスムーズに導入するため、プログラミングのプラットフォーム「Arene(アーリーン)」を独自開発した。シミュレーションとも連携しており、これらツールを活用して実装とテストを繰り返し、コンセプトから実装までの期間を短縮できる。これらのツールを活用して、自動運転と手動運転を切り替える際のユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンスのソフトを開発している。

一方で、製造業のソフト開発は、最初から仕様や要件、開発工程をきっちりと決めてスケジュールに沿って開発するウォーターフォールと呼ばれるスタイルが主流だ。典型的なのがほとんどの日系自動車メーカー、サプライヤーが採用している「モデルベース開発(MBD)」だ。自動車のソフト開発は納期が厳格に決まっており、開発を計画的に一歩づつ前に進めて品質を確保するのに適している。ただ、進化のスピードが早い自動運転向けソフト開発にウォーターフォールで開発していては、周回遅れになる可能性がある。それでも、開発の途中で仕様が変わり、開発プロセスも手戻りするアジャイル開発に否定的な製造業は多く、トヨタグループでもまったく浸透していない。

TRI-ADにはエンジニアを教育する「Dojo(道場)」も設けており、社員に効率的で柔軟な考え方などを訓練する。カフナーCEOは「ハードウエアの高効率生産方式であるTPS(トヨタ生産方式)を、TRI-ADはソフトで実現する」としている。まず出向しているトヨタ、デンソー、アイシン精機のエンジニアに、ソフト開発での意識改革を促す。TRI-ADで実績を示し、トヨタグループ全体に拡げていく方針だ。IT化が加速する自動車開発でライバルに遅れないためにも、TRI-ADに課せられたミッションは重い。