展示会場には最新の制御開発機器が並び、来場者から高い関心を集めていた
基調講演ではホンダなど自動車メーカーなどが制御開発の取り組み事例を解説した
dSPACEのゲッツェラーCEOは事業方針の転換を表明した
中国のEVメーカーであるNIOは実車を展示。注目を集めていた

 自動車の進化とともに電子制御ユニット(ECU)の搭載数は増大し、制御内容が複雑化している。中でも、自動運転や電動化といった次世代技術では、制御プログラムがクルマの性能を大きく左右するため、制御開発の重要性は従来以上に増している。そうした中で、制御開発ツール最大手の独dSPACEが、初のグローバルユーザーイベント「dSPACEワールドカンファレンス2019」をミュンヘンで開催した。同社の制御開発関連技術を多数紹介したほか、欧州の自動車メーカーや部品メーカーなどが制御開発の取り組みについて解説するなど、最新の制御開発トレンドを一挙に知ることができる貴重な場となった。

 同社ではこれまで各国・地域ごとにユーザー向けイベントを開催してきたが、グローバル規模でのイベントは今回が初の試みとなる。ミュンヘン空港に隣接したホテルにて2日間のスケジュールで開催した同イベントには、欧州をはじめ日本や北米、中国など世界30カ国から、自動車メーカーや部品メーカーの制御開発エンジニアを中心に約500人が集まった。

 今回のイベントは、次世代車の世界的な開発トレンドである「自動運転」と「電動化」をテーマに設定した。同社の制御技術や開発機器を紹介したほか、自動車メーカーやサプライヤー、調査機関などの制御開発分野の責任者による基調講演を実施。独フォルクスワーゲン(VW)や独BMW、スウェーデンのボルボ・カー、独ZF、仏ヴァレオといった欧州メーカー、サプライヤーのほか、中国の新興電気自動車(EV)メーカー「NIO(ニーオ)」などが、制御開発に関する取り組みを解説した。日本からもホンダが参加した。

 VWは、膨大に負担が増加している制御プログラム開発のテスト手法や、複数のECUを効率的に検証する仕組みなどについて説明した。VWでは4年前から制御プログラムのテスト環境の抜本的な見直しを進めており、電子電気統合システムテストの責任者を務めるペーター・エール氏は制御プログラムのテスト環境について「既存の理論やプロセス、ツールというのはこれまではうまく機能してきたが、高度で複雑な制御プログラムのテストが不可欠となる今後は通用しなくなる。従来とは異なる分野への投資が必要であり、大きな変化がソフトウエアを中心に起こっている」と実態を説明。加えて「グローバルで多くのブランドや車種を展開するVWにとって、プロセスを大きく変えるのは大変な挑戦となった」と述べた。

 BMWは、高度自動運転技術の開発について説明した。自動運転開発のシニアバイスプレジデントを務めるアレハンドロ・ヴコティヒ氏は、高度自動運転の実用化に向けて、技術や法規制、インフラ整備などのさまざまな課題を挙げた。開発では「バーチャル検証が2億4千万㌔㍍を超えるシミュレーションテストを可能にした。実際の走行データも重要だが、毎日良いデータが得られるわけではない」とシミュレーションテストの重要性を示した。

 その上で「自動運転はシェアリングと所有、どちらにも顧客ニーズがある。自動運転でもっと魅力的なビジネスモデルが出てくるだろう」と自動運転の可能性を指摘。さらに「自動運転は過ごし方の自由を与えるため、クルマが賢くないと乗員が疲れてしまう。どう過ごさせるかにブランドの個性が出る」と自動運転時代におけるブランディングについて意見を述べた。

 ホンダも自動運転の実用化に向けた取り組みについて説明した。高速道路での「レベル3」(条件付き運転自動化)に関する取り組みを紹介。登壇した安井祐司主任研究員は、人工知能(AI)の研究開発について説明し「高精度地図は全ての道路をカバーするわけではない。歩行者や自転車がどのように動くか予測することが大事だ。合流や道路工事の対面通行、商店街などでは、周囲と〝ネゴシエーション〟できるAIが必要となる」と自動運転におけるAIの重要性を示した。

 展示会場では、dSPACEが強みとする制御プログラム開発に関する最新製品や技術を多数用意した。自動運転では、制御プログラムの開発からハード及びソフトウエアの検証、センサーの仮想テスト、走行シミュレーションまで、制御開発に関する全ての領域をカバーする製品群を展示。今年7月に買収したAI技術のスタートアップ企業である独understand.ai(アンダースタンド・エーアイ)社の技術も紹介し、dSPACEのシミュレーションソフトと組み合わせてさまざまな走行環境を再現していた。

 電動化技術では、モーターやバッテリーなどのバーチャル検証技術を紹介。車両開発に加えて、充電インフラとEVを組み合わせたエネルギーマネジメントのバーチャル検証技術なども新たに披露するなど、電動車に関する制御開発をトータルでカバーできる体制をアピールした。

 制御開発の関連機器でグローバルリーダーのポジションにつけるdSPACEだが、今回のイベントでは従来の制御開発関連機器の販売から、制御開発全般にわたる支援サービスの提供へビジネスモデルを転換する方針を表明した。事業方針転換の背景には、車両開発に占める制御開発の重要性が急速に高まっていることがある。特にあらゆる走行環境での検証が必要となる自動運転の実用化には、制御開発の効率化が不可欠となる。その中で、dSPACEのマーティン・ゲッツェラーCEOは「制御シミュレーションを通じて多くの顧客に最適なソリューションを提供していくことで、自動車産業のより良いパートナーを目指していく」と述べ、さらなる成長に自信を見せた。

(浅井 大樹)