トヨタはモメンタと組み、中国で高度なADASを実現している
NOAによる死亡事故があったシャオミだが販売の勢いは衰えない

 トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車ら日本勢がこぞって手を組む「Momenta(モメンタ)」。米マイクロソフトの元研究者が2016年に設立した中国の自動運転スタートアップだ。国内ではほとんど耳にすることがないが、高度運転支援システム(ADAS)の認知、判断、制御を人工知能(AI)が担う「エンド・ツー・エンド(E2E)」に強い。自前主義が強い日本勢だが、技術進化の早さと地政学リスクを踏まえ、中国では現地発の技術を用いる。ただ、〝その先〟は見えない。

 「もはや中国のユーザーが求めているのはEV(電気自動車)ではない。知能化に優れたスマートカーだ」―。マツダの毛籠勝弘社長は、中国における〝競争軸〟の変化をこう指摘する。出遅れたとはいえ、日本勢も中国でEVを展開している。にも関わらず、販売面で現地勢に大きく水をあけられている背景には「知能化」の遅れがある。「新エネルギー車(NEV)」のメインターゲットはZ世代(10歳代後半~20歳代後半)。彼らに刺さるキーワードが「AIが動かすクルマ」だ。

 E2Eを用いた注目のADAS機能が「ナビゲート・オン・オートパイロット(NOA)」だ。カーナビゲーションの経路案内時に限り、高速道路や幹線道路で合流や車線変更などをほぼ自動で行う機能を指す。ドライバーが運転責任を負う「レベル2」(高度な運転支援)」の範疇(はんちゅう)だが、ドライバー・モニタリング・システム(DMS)があればハンドルに手を添えている必要はない。現地メーカーはNOAを「高階智能運転」と謳(うた)い、運転支援レベルの高さをアピールする。ホンダの五十嵐雅行中国本部長は「中国はNOA技術がグローバルの中でも極めて速いスピードで進化し、普及している」と舌を巻く。

 トヨタは、モメンタと共同開発したADASを搭載するEV「bZ3X」を3月に発売した。E2E採用モデルでも約15万元(約300万円)からと手頃な価格で販売は好調だ。日本ではレクサスのフラッグシップ「LS」などにしか搭載していていないLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)をルーフ上に1基搭載する。実際に試乗したところ、E2Eの運転支援は、日本で乗り慣れているルールベースのADASよりも人間の操作に近い印象を受けた。ディスプレーにはライダーが検知している車両や人、自転車などがリアルタイムで表示される。米テスラのような演出だ。

 このE2EベースのNOAを提供するモメンタには、中国企業だけでなくトヨタやメルセデス・ベンツ、ボッシュなど自動車大手も出資する。モメンタのシステムを搭載したクルマが増えるほど、収集した走行データによってAIは賢くなるが、たとえ出資はしていても、NOAの差別化につながりそうにない。一方で過去、母国でなかなか進まなかったデータ面での協調が中国スタートアップによって実現したことは皮肉とも言える。

 中国のADAS市場は、拡大と価格競争が同時進行していることも特徴だ。EV最大手の比亜迪(BYD)は2月、自社開発のADAS「天神之眼」を低価格帯も含む全モデルに搭載していくと発表し、業界を驚かせた。天神之眼はライダーの有無などで3グレードを展開するが、もっとも価格が低いタイプでもAIを活用してNOAを実現するという。

 ADASの普及競争が過熱する一方で、事故も起きている。3月、スマートフォン大手の小米科技(シャオミ)が手掛けるEVがNOAの作動中に事故を起こし、乗員が死亡した。レベル2への過信による事故だが、中国当局は消費者の誤解を招かないよう「自動運転」「自立運転」といった広告表現を禁止する通達を出した。事故直後に開幕した「オート上海2025」でも「ADASの機能の表現については気をつけるよう運営側から厳しく指導があった」と日本メーカーの幹部は明かす。シャオミは上海オートのプレスカンファレンスを中止した。

 しかし、先月26日にシャオミが発表した新型EV「YU7」は発売からわずか3分で20万台以上を受注したという。安全への懸念は、次々と出てくる新しいEVや技術にかき消されているようだ。

 現地メーカーとの協業でE2Eの実装を中国市場で実現したトヨタだが、ルールベースのADASの自社開発も継続している。中国市場とその他の地域では求められる機能や品質が異なるからだ。ホンダの三部敏宏社長は5月の事業説明会で「中国での技術を〝手の内化〟し、グローバル展開するという考え方もあるが、中国の技術を使うのはリスクが伴う」とし「グローバル展開する技術は中国には入れない」とも語った。

 先鋭化する米中摩擦なども踏まえ、多くの外資が自前主義と現地調達の〝二正面作戦〟を志向する。しかし、AIに代表されるように技術の線引きは難しい。ADASや、その先にあるAD(自動運転)戦略の攪(かく)乱要因にもなりそうだ。