日本自動車会議所は、税制などに関する政府・与党への提言や要望活動を長年、続けてきた(同会議所提供)

 2025年の自動車税制論議は、電動車時代の税制像を形づくる分水嶺になる可能性がある。戦後のモータリゼーション(自動車の大衆化)にせき立てられるように道路をつくってきた日本。自動車ユーザーが納める自動車関連税がその整備財源として役立ってきたが、緊急に道路を整備する必要性が薄れた今も、複雑で過重な税負担が残ったままだ。半世紀にわたり見送られてきた自動車税制の〝抜本改革〟に道筋をつけることができるか。日本自動車会議所の新会長に就く豊田章男氏のリーダーシップに期待が集まる。

 日本自動車会議所は、終戦直後の1945年11月に設立した「自動車協議会」を前身とする。同協議会はトヨタ創業者で豊田章男氏の祖父である喜一郎氏が会長を務めた。モータリゼーションが進む中で、総合団体として業界の意見を行政に働きかけることを活動の主軸に置いてきたことから、48~87年の間、3~9代目会長は参議院議員が就いていた。

 10代目の石原俊氏(日産自動車会長)以降、自動車メーカーからトップを選任している。19年もの任期を務めた豊田章一郎氏は、自動車団体の連携と情報発信を強化する拠点として「日本自動車会館」を2004年、東京都港区に開設した。日本自動車会議所には現在、自動車生産、販売や整備、トラックやタクシーなどの輸送・交通分野、ガソリンスタンドなどの油業まで166の団体・企業が加盟する自動車産業の最上部団体となっている。

 団体活動のメインとなるのが税制など政策課題に関する政府への提言や要望活動だ。特に税制に対しては、1977年に発足した「自動車関連問題国会議員連盟(後に自動車議員連盟に改名)」との連携を進めてきた。約200人が加盟する自動車議連は自民党で最大級の議連の一つでもある。自動車業界側の窓口は日本自動車会議所が担い、自動車議連との政策懇談会を定期的に開いている。

 活動の中心となる自動車税制改正は抜本的な見直しに向けて議論が本格化している。大きな焦点となっているのが「電気自動車(EV)時代の自動車税制のあり方」だ。自動車税制の歴史をひもとくと、政府は道路整備費用を自動車ユーザーから徴収する目的でさまざまな税金を課してきた。ただ、国内の道路網がほぼ完成し、自動車税収と道路整備を結びつけてきた「道路特定財源制度」が廃止された今も、道路の維持管理のための自動車税収の必要性が公然と唱えられ、自家用車ユーザーに偏った重い税負担や、ガソリン税(揮発油税)に消費税が上乗せされる二重課税問題など、不合理な税体制が是正されずにいる。

 一方、ガソリンを使わないEVの普及が進むと燃料税収は減る見通しだ。EVはガソリン車の課税基準となっている排気量という概念もないため、新たな課税基準を設ける必要もある。抜本的見直しに向けては、自動車を保有するユーザーだけでなく、移動サービスの利用者、移動のビッグデータを活用する企業など幅広い〝モビリティの受益者〟にも税負担を広げるような議論も必要になってくる。

 日本自動車会議所によると、国内の自動車関連の就業人数は558万7千人にのぼる。ひとくくりに日本の基幹産業とはいえ、業種ごとにさまざまな課題に直面する。こうした課題を克服し、産業全体で競争力を高めていくためには、業種をまたぎ連携していくことが欠かせない。

 自動車税制については総論賛成ながら、細かい要望は団体間で微妙に食い違う。政府・与党への要望活動ではこうした利害を調整し〝ワンボイス〟で働きかけていく必要もある。「もっといいクルマづくり」「町一番の会社」などのキーワードで巨艦トヨタを改革した豊田新会長のリーダーシップや高い情報発信力で難攻不落の自動車税制を変えることができるか。期待が集まる。

(編集委員・福井 友則)