三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が、2027年4月の合併に向けて協議に入った。損害保険業界で、売上高に相当する正味収入保険料が3位と4位の両社が統合すれば、東京海上日動火災保険を抜いて国内トップになる見込み。2社の親会社のMS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)社長で、三井住友海上の社長も兼務している舩曵真一郎氏に、合併の背景や今後の自動車保険の方針などについて聞いた。
―なぜ今、合併を決めた
「(ここ1年数カ月で法人向け共同保険のカルテルと情報漏洩の2つで)金融庁から行政処分を受けた。顧客から最も信頼されて選ばれる保険会社になるための企業統治(ガバナンス)の体制をつくることが最優先になった。売り上げではなく、企業価値で世界トップ水準にすることが目的だ」
―今のガバナンスは
「持ち株会社は新川(東京都中央区)にあるが、傘下の中核会社の第一線はあいおいニッセイ同和損保が恵比寿(渋谷区)と、三井住友海上が神田駿河台(千代田区)とそれぞれ離れている。(組織も)縦割りにもなっており、ガバナンスの強化を考えると、1社にならないといけない。一番重い解決すべき課題だ」
―損保会社を取り巻く環境も変わっている
「政策保有株の持ち合いも解消しつつあり、さまざまな企業の在り方も(商品本位に)変わってくる。入札額も高くなってくる。資本力を強化することで、高まるリスクを引き受ける能力をつけないといけない」
―合併に対する社員の受け止めは
「グループの若い社員は、前向きに捉えている。チャンスと思うことが重要で、変わることができる人がリーダーや管理職になる」
―自動車保険やディーラー代理店との関係はどうなる
「まず、比較推奨販売を適正化していかなくてはならない。それには、保険商品のシンプル化がマストだ。分かりやすい商品、分かりやすい販売のためにはデジタルトランスフォーメーション(DX)の対応が必要で、保険の価格競争力も重視される。(低コスト化のために)2社の事業費構造を変えるためにも合併は必要だった」
「ディーラー代理店、損保会社で、どこまでがそれぞれの仕事なのか、これまであいまいだった。役割を明確化して利益やコストを配分する」
―自動車保険には何が求められているのか
「われわれの調査では、顧客は適切な契約をスピーディーに手続きできることを一番期待している。さらに、保険金支払い時の補償の納得度、保険期間中にフォローアップしてくれる、ことを望んでいる人が多い」
「2社以上の保険商品を取り扱う乗合代理店の場合も、顧客は何を基準に保険会社を選ぶのか。1社専属にするにしても、どこの保険会社を選択するべきなのか。損保会社もディーラー代理店もしっかり考えていく必要がある」
―シンプルな保険商品はいつ登場するのか
「27年4月に合併するので、その後の最初の保険料改定の時になる」
―28年1月か
「具体的な時期は決めていない」
―新会社の社名は
「3つの考え方に基づいて決めていく。まずは『顧客が安心して任せることができる気持ちになれる』『一線の社員が仕事をしやすい』といったものだ。『海外での知名度』も重要だ。今や利益の半分以上を海外から得ているからだ」
―社名は短くするのか
「あまり長くしたくはないとは思っている」
―トランプ関税の影響は
「(継続的な物価上昇が続く)インフレになるかどうか注視している。インフレになれば当然、保険金支払い額も増えてくる。契約が長期間となる保険商品の販売については、再検証をしないといけない」
〈プロフィル〉ふなびき・しんいちろう 1983年神戸大学経営学部卒、住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。2017年4月MS&ADインシュアランスグループHD執行役員。21年4月三井住友海上火災保険社長。24年6月MS&AD HD社長。1960年5月生まれ、64歳。東京都出身。
(小山田 研慈)