「私はカーラバーだ」と話すエスピノーサ社長
新型「パトロール」

 日産自動車のイヴァン・エスピノーサ新社長が3月31日までに日刊自動車新聞などとのインタビューに応じ、経営課題や風土改革に取り組む決意を語った。電動化、知能化投資が膨らむ矢先に米国での利益急減に見舞われた同社。商品や販売のテコ入れ、ルノーに代わるパートナー探しなどを急ぐ必要がある。事業再生計画「ターンアラウンド」をいかに実行し、日産ブランドを再建していくか。商品企画出身、46歳の若きメキシコ人リーダーが背負う課題は重い。

 ―内田誠前社長は「カーガイ(クルマ好き)」と紹介した

 「微妙な違いだが、私は『カーラバー(車を愛する人)』だ。商品企画に携わる中で、性能やスペックよりも、背景にある物語によってクルマを愛するようになった。日産は顧客に焦点を当て、デザインや仕様の選択も考え抜いている。新型車は良い化学反応の結果だ」

 ―商品企画の面から、業績低迷をどう見ているか

 「現在の商品ポートフォリオは完璧ではない。今後は『パトロール』や『フェアレディZ』のようなブランド重視のモデルを5~6車種展開し、できるだけ多くの市場に投入したい。また量販モデルは欧州では小型車が、北米では大型SUVが人気で、各国の市場状況に合わせて調整すべきだ。さらに特定市場向けのユニークな車種はパートナーと組むことで、資源を有効活用できる。こうした戦略が市場とのギャップを解決することに役立つだろう」

 ―なぜこれまでの商品戦略はうまくいかなかったのか

 「経営判断の遅さは是正する必要がある。市場は激しく動き、地政学的な変化や規制の変更もある。対処する唯一の方法はスピード感を持つことだ。現在は約55カ月かかる新車開発期間は37カ月以下に短縮したい。状況変化により迅速に反応するつもりだ」

共通の目標に向かって 

 ―仕事をする上で大切にしていることは

 「社内では3つの言葉を繰り返している。スピード感、経営の安定性、そして最も重要なのが『共感力』だ。危機的状況でお互いを非難するのは簡単だが、共通の目標に向かって一緒に取り組む必要がある。12万人の従業員は誰ひとり、悪意を持っているわけではない。会社をより良くする風土をつくる必要がある」

 ―新型車の中で業績をけん引するモデルは

 「例えば『パトロール』はブランド要素も強く、稼ぐ力もある。『ローグ』のような量販モデルも販売を伸ばして収益をけん引してくれるだろう」

 ―国内市場について

 「日本では平均車両価格を引き上げる必要がある。今は低価格帯に偏り過ぎている。例えば選択肢として『パトロール』や『インフィニティ』を日本で出せ、と言われれば、できるかもしれない」

 ―内田前社長も就任時、新型車で攻勢を掛けようとしたが思うようにいかなかった

 「現在は多くの問題が起きており、会社をよりレジリエント(強じん)にする必要がある。方法の1つがターンアラウンドの実行だ。コスト削減については迅速に動いている。例えば変動費の削減では、対象を6車種から16車種に拡大している。市場ごとに深い戦略が進行中だ」

「知能的なクルマ」の開発に集中する 

 ―商品企画の観点から、他社との提携は拡大すべきか

 「協業は目的ではなく、需要に対する結果だ。私は自動車業界の未来はインテリジェントカー(知能的なクルマ)だと思う。今後10年間はインテリジェントカーの開発に集中する必要がある。伝統的な自動車メーカーと組めば電池への投資などを分担できるが、本質はどのように協力するかだ。スケールメリットと次の時代への技術開発を推進するため、お互いに利益を得られるかどうかだ」

 ―トランプ米政権の関税政策をどう見るか

 「非常に流動的であり、いくつかのシナリオを用意し、あらゆる可能性を想定している。政策が明確になった時に実行できるように準備をしている。私は(各国間の)対話がもう少し建設的になることを期待している」

 ―なぜ日産はこれまで変われなかったと考えるか

 「私自身、新車開発をもっと速く進められなかったことを残念に思う。企業文化を変えるのは簡単ではないが、新たな経営陣と全力を傾ける。躊躇(ちゅうちょ)せずに実行すべきだと決意している。(社員の)士気に関する深刻な危機があり、大きく構造改革をしなければいけない。社内には優れた製品を開発し、人々を幸せにする素晴らしい人材がいる」

 ―ホンダとの経営統合は破談となった。単独での経営再建は可能か

 「自動車業界は大きな変化に直面しており、私はパートナーに対してとてもオープンな考えだ。ホンダとは協業に向けてプロジェクトごとに引き続き議論している。経営統合はうまくいかなかったが、日産の企業価値を高めるためであれば、ホンダやその他のパートナーに対して私はオープンだ」

 

〈プロフィル〉JATOダイナミクスのエンジニアリングアナリストなどを経て、2003年10月メキシコ日産入社、14年4月日産インターナショナル VP商品企画、18年4月日産自動車常務執行役員、19年12月専務執行役員、24年4月チーフ・プランニング・オフィサーなどを経て4月1日、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。1978年11月生まれ、46歳。メキシコ出身。趣味はドライブやバンド活動、テニスなど。愛車は米国から個人輸入した左ハンドル仕様の「フェアレディZ(RZ34型)」。

(中村 俊甫)