予想外に起きる自然災害では救助隊の現場到着が困難なケースは多い。高速道路のトラック火災でも初期消火の遅れが交通渋滞を引き起こす。こうした中、防災の最前線に挑むのが輸入車やキャンピングカー事業を手掛けるホワイトハウスグループだ。災害現場での迅速な対応を可能にする商材を多く取り揃える。小型救助車両導入や次世代消火具の取扱い、災害協定など官民連携の取り組みも進める。なぜ、自動車ディーラー本業の同社が「防災事業」に参入したのか。その背景には木村文夫社長の強い思いがあった。
1995年1月17日の「阪神・淡路大震災」から30年。当時「もう終わった…」と声を漏らしたのが、大阪のホテルに滞在中の若き木村社長だ。その時、感じた恐怖と少年の頃からの実母の「世のため、人のためになりなさい」の言葉。輸入車、キャンピングカー事業を主体に置きながら、ビジネスになり得る防災へのアンテナを張り続けた。
時は経ち2015年、オフロード車両「ポラリス・レンジャー」の取扱いを開始した。小型ゆえの機動性や走破性に災害現場での活躍を見出した。特に「小回りが利き、災害現場へ人や機材、物資を運搬できることや悪路走行が可能な利点」を訴求し続けた。19年に東京消防庁に2台採用された。
21年の静岡県熱海市の「熱海市伊豆山土石流災害」の不整地での活躍でその走破性能が証明された。24年には総務省消防庁へ納入し、全国6カ所へ配備された。時同じくして、東京消防庁からも4台の追加発注があった。長年構想していた「防災支援がひとつの形になった」(木村社長)出来事だった。
ポラリス・レンジャーは24年1月の「能登半島地震」や今年2月の「大船渡市山林火災」でも能力を発揮した。東京消防庁の特殊車製作係担当者は「機動性が高く災害現場で迅速かつ効果的な対応が可能になった」と評価する。
総務省消防庁の消防統計(火災統計)2023年1~12月火災の状況によると、車両火災は3521件で、火事全体の約10%を占める。高速道路でのトラック火災は二次被害として交通渋滞によるさまざまな分野に悪影響を及ぼす。木村社長は「全てのトラックに消火手段を準備しておくべきだ」と危機感を示す。
こうした中、24年2月から新たに防災商品として小型消火具「ファイヤーショーカスティック(FSS)」の販売を始めた。一般の消火器が10型で約5㌔㌘に対し、FSS100は365㌘と軽量な上、放射時間は約7倍の100秒間の能力を持つ。消火剤は微細なカリウム粒子、水蒸気などを用いるためエンジンルームなどを粉末で汚す心配も不要だ。
「車に搭載しやすく初期消火に有効な防災商品」(谷川伸一部長)とし、交通インフラや各業界への導入提案を進めてきた。「試験的に導入し、軽量なので迅速な消火活動に対応できるのではないか」(NEXCO中日本の津高速道路事務所管理担当)とし、道路パトロールカーに常備する。昨年末には累計販売1万本を突破した。
ポラリスは災害現場での機動力を高め、FSSは車両火災リスクを軽減する防災商品と位置づける。一方で、災害時に必要なのは「救助車両」や「消火具」のみではなく、いかに避難場所を確保するかも重要な課題だ。