●情緒的なクルマの造り方
機能だけではなく、感情も入る商品の開発項目は多岐にわたり複雑で、それらを一つの商品にまとめるのは大変だ。つまり、それらが1つの商品コンセプト(仕様書?)を基にして統合されなければならない。だから、どういう商品を創るのかという商品コンセプトが大切なのだ。
しかも、そのコンセプトは他社を出し抜く?新しい価値を持ったものが望ましい。さらに、企業のブランドはもちろん、もっと根本の企業理念にも沿わなくてはならない。「競合車をリードするクルマの商品開発」は、複雑で難しいのだ。
それなのに、多くの企業でみられるのが「マーケティング根拠のない個人の感覚」だけで商品に口出しする社長以下の権力を伴った人だ。そういう〝社内環境〟の中では、商品コンセプトや企業理念はどこかへ飛んで行ってしまい、商品開発は成立しない。
社長や役員でマーケティングなどの開発に必要な知識や感覚を持っている人は少ない。これは成熟した日本では、商品開発よりも「偉くなること」を頑張らないと社長や役員になれないことによる。結果、商品のことを勉強する時間が取れず理解できなくなる。
商品のことを分かってない社長らはそれを自覚して口を出さないことだ。開発者のモチベーションにも影響するから怖い。
本来、商品企画や商品の内容そのものの社内評価は、ユーザーから市場、社内事情まで精通した人がやるべきで、社長以下の権力者が経営的な内容を超えて商品の内容まで口出しするのはおかしなことなのだ(餅は餅屋)。
また一方で、商品企画の提案者側も社長や役員という偉い人に開発内容まで承認してもらうことにより、ある種の責任逃れやゴマスリができることと、その後の開発作業の社内展開も社長承認済となるとやりやすくなるので、利用している側面もある。これでは、良い商品企画ができるはずがない。
商品企画の提案責任者は、さまざまな多くの〝社内環境問題〟に対して、知恵を絞って乗り越えたりかいくぐったりして、商品コンセプトを創りその開発を全うしなくてはならない。ホンダの場合、初代「N―BOX(エヌボックス)」(写真6)は、そういう努力が実ったという非常に希な良い商品になった。しかしその後、このレベルの商品が出てこないのは、商品開発の中で「社内のさまざまな環境問題」につまづいているのか、そのこと自体を肯定してしまっているのかもしれない。
「商品企画」は人間関係の際を歩くような部分もあるが、本来的には創造業務であることから楽しい業務なのだ。社員の多くが希望する業務である。そのパワーをいかに商品開発に向けるのか?これこそが経営者の仕事だ。
経営者にとっては「そんなことよりも収益が上がるのか?」が最大の関心事だとなると、やはり商品企画は経営からある程度独立していた方がいいだろう。
言うまでもないが、魅力的な新商品企画をできることが企業運営の根幹だ。大変失礼とは思うが、日産は昔からここのところが分かっていないのではないか?顧客や技術のことより、社内の都合や事情が先行していないか?
となると、誰とくっついてもダメで、自身が自立すべきということだ。
〈プロフィル〉しげ・こうたろう 1979年ホンダ入社、34年間在籍し「CR―Xデルソル」「ライフ」「エリシオン」、2代目「フィット」「N―BOX」など数々のヒット車の開発責任者を務めた。2013年12月定年退職。現在は新聞やネット、雑誌で自動車関連記事を執筆している。1952年7月生まれ。