CAEを駆使して試作の回数を減らす(イメージ)
「アセスメントを議論するワーキンググループへの参画を目指す」と話す山本直執行役員

 豊田合成は、主力製品であるエアバッグの開発リードタイムを今後3年で半減させることを目指す。衝突時の乗員の挙動や傷害をコンピューター上で再現する「人体モデル」を用い、ダミー人形を用いた試験では難しい内臓傷害などのリスクを精度良く予測し、試作の回数を減らす。人工知能(AI)で開発のさらなる効率化も検討する。これまで蓄積したデータを強みにデジタル技術を駆使し、多様なエアバッグを短期間で開発し、自動車メーカーに売り込む。

 同社は、1989年にトヨタ自動車「セルシオ」の運転席エアバッグを開発したのを皮切りに、各種のエアバッグを手掛ける。今ではスウェーデン・オートリブや独ZFなどに次ぐエアバッグの世界大手だ。製品開発では法規やアセスメント対応にとどまらず、滋賀医科大学をはじめ国内外の大学と連携して事故調査のデータを分析し、コンピューター支援設計(CAE)に活用している。例えば乗員に対し遠い側からの側面衝突では、胸腹部と内装部品が接触し、肝臓を受傷するケースが多いが、前席センターエアバッグで上体の倒れ込みを抑えると、肝臓への負荷を低減できることがわかった。

 山本直執行役員(セーフティシステム事業本部長)は「ガスの流れ方をはじめ、エアバッグがどう膨らむかをCAEで精度よく再現できるのがわれわれの強みだ」と話す。展開時間の比較では、CAEと実験データの差は1㍉秒以内だという。こうした高い再現性を強みに、助手席エアバッグなどの開発でCAEを適用し始めており、30年までにすべてのエアバッグに適用するなどし、開発を効率化する。

 今後は死亡者や重傷者を減らすだけでなく、足首エアバッグなど、後遺障害が残りやすい部位に着目した製品の開発も進める。シート位置や乗員姿勢が多様化する自動運転車の普及もにらみ、AIによる予測技術でさらなる開発の効率化も検討する。

 同社は膨大な開発データを自社製品だけでなく、社会的にも活かしていく考え。デジタル技術の進化を背景に、欧州「ユーロNCAP」などで、人体モデルなどを使ったバーチャルテストの導入が検討されている。同社はユーロNCAPのボードメンバーと交流し、アセスメント動向に迅速に対応するとともに、開発や解析で培った知見を積極的に発信していく考えだ。山本執行役員は「将来的には次のアセスメントを議論するワーキンググループへの参画を目指す」と語った。