外観は従来型のコンセプトを踏襲
車が「スピーカーボックス」になるような設計を採用
高級感のある車内空間に仕上げた
電池を刷新した新しいパワートレインシステム
ヤマハ製オーディオを日本販売車に採用したのは三菱自が初
車重の増加に合わせてタイヤも変更
CMには江口洋介さん(中央)を起用
「EVの需要が停滞し、PHVの需要が高まっている」と加藤社長

 プレミアムSUVの販売競争が激化しそうだ。三菱自動車は主力のSUVタイプのプラグインハイブリッド車(PHV)「アウトランダーPHEV」を大幅改良して発売した。500万円超の価格帯のSUV市場には、マツダがPHVも設定する「CX―80」を投入したばかりだが、輸入SUVも含めて多くのライバルがひしめく。三菱自は、アウトランダーPHEVの駆動用電池を変更、航続距離を伸ばすなど、市場ニーズに対応して販売のてこ入れを図る。

 三菱自の加藤隆雄社長はアウトランダーPHEVの改良モデルの発表会で「デザインの評判が高かったため、外観をあまり変えずに、内装の変更と性能をアップした。乗ってもらえれば性能の進化を実感してもらえるはずだ」と述べ、国内販売の拡大に自信を示した。

 アウトランダーPHEVは2021年12月に全面改良して以来、今回が初の大幅改良となる。駆動用電池を変更し、サスペンション最適化などによる乗り心地の改善を図った。内外装デザインも変更した。ナビゲーションやコネクテッド機能の充実を図ったのに加え、ヤマハ製オーディオを設定した。最上級グレードとなる「Pエグゼクティブパッケージ」を追加設定した。

 特に改良の売りにしているのが走行性能の向上だ。実現できたのは駆動用リチウムイオン電池を、ラミネート型から角型に変更したからだ。これによって電池容量を従来比10%アップの22.7㌔㍗時に増やした。同時に、新しい冷却器を設置して冷却性能を従来比50%向上した。この結果、パワートレインシステム全体の出力を20%アップし、モーターのみでの航続距離についても従来の83㌔㍍から102㌔㍍に伸ばした。国内で購入できるPHVの中で、モーターのみの航続距離はトップクラスだ。輸入車では100㌔㍍を超えるモデルもあるが、国産車ではトヨタの「RAV4」「ハリアー」が90㌔㍍中盤、マツダのCX―80では67㌔㍍にとどまる。モーターのみで100㌔㍍超を走行できれば、日常使いでは充電するだけで電気自動車(EV)として使える。

 アウトランダーPHEVは今回の改良ではフラッグシップモデルとして乗り心地の向上も追求した。車両重量が増加したことからサスペンションのチューニングの最適化を図った。電動パワーステアリングは低速での取り回し性の軽快さを維持しながら、高速走行時、操舵力を重めの設定に変更し、安心な走りを目指したという。

 ヤマハと共同開発したオーディオシステムの設定も三菱自のプレミアムモデルとしてこだわったポイントだ。ヤマハのフラッグシップスピーカー「NS―5000」の振動板をベースに開発した高性能振動板をミッドレンジとウーファーに搭載し、クリアで高い解像度の中高音やリアルな音を再現するとしている。音楽のプロであるヤマハのオーディオシステムの性能をフルに引き出すため、フロントドアパネルの隙間をふさぐなど、クルマ側にも手を入れた。スピーカー背面からのノイズを遮断できる設計にするなど、車室に「スピーカーボックス」としての役割を与えた。サウンド補正性能もこだわり、オフロード走行時や雨天時など、使用シーンを問わず変わらない音質を車内に再現できるようにしたという。ヤマハの上級オーディオシステムは標準装備だが、スピーカーの個数を増やせるオプションを用意した。

 また、インフォテインメントシステムでは、スマートフォン連携ナビゲーションのモニターサイズを従来の9㌅から12.3㌅に拡大した。同時に、モニター画面でグーグルのストリートビューや航空写真も見られるようにして、スマートフォンの機能を車室内でも活用できるように対応した。

 外観は基本的にキープコンセプトとしたが、フロントアッパーグリルのデザインを一部変更して質感の向上を図った。内装ではシートやインストルメントパネルに新色を設定した。専用のセミアニリングレザーシートを採用した最上級グレードを新たに設定した。

 価格は526万3500~668万5800円(消費税込み)。

 三菱自の23年度の国内新車販売は前年度比20.2%増の11万691台となり、乗用車ブランドとして17年ぶりに最下位から脱した。ただ、好調なのは「デリカミニ」をはじめとする軽自動車で、登録車販売は前年を下回っている。登録車市場でも存在感を打ち出していくことを狙っており、大幅改良したフラッグシップモデルがその実現性のカギを握る。