「どうやったらたくさん販売できますか?」「売れるコツとかありますか?」若者の研修を行う時に、よくこの質問を受けます。営業職であれば誰もが知りたい内容でしょう。確かに商談において有効な話法であったりツールは存在します。しかし、それらを手に入れたからといって、すぐに販売成績が伸びるわけではないです。先に覚えることは何よりも基礎なのです。

スキル・テクニック習得を急ぐ若者

こんな話があります。とある野球少年がいて、彼は若いながら優れた選球眼を持ち、打率が高かったのです。そして試合の前日に素振りを100本行い、明日の試合に備えていました。しかし試合当日、監督が発表したスターティングメンバーの中に、彼の名前はありません。昨日の練習は虚しく、ベンチで試合を見守ることになりました。

なぜ、彼は試合に出れなかったのか。この話、前述の話に大きく関係しています。この野球少年と同じようにスキル・テクニック習得を急ぐ若者が多いのですが、打席に立てなければ身に付けた技術は意味を持たなくなります。大事なのは身に付けた技術を使う「場」を用意することです。そしてこの場を用意するためには基礎が必要になるのです。

目の前に瓶があると想像してください。その中に最初は大きめの石を入れます。その後、隙間に小さい石を入れます。まだ隙間があるので砂を入れ、最後に水を入れます。すると瓶は満タンになります。このことから言える教訓は何でしょうか。多くの人は「自分が思っている以上に、まだ瓶の中には入れる余地があるのでは」と想像するのではないでしょうか。

しかし、ここで伝えたいことは、入れる順番です。最初に砂と水で満タンにしてしまうと、後から大小の石は入らなくなってしまいます。人生も仕事も、これと同じことが言えます。砂と水は「スキル」や「テクニック」。大小の石は「人としてのスタンス」「考え方」「捉え方」「価値観」に当たります。先にスキルやテクニックを詰め込み過ぎると、後から大事なものが入らなくなってしまうのです。

「場」を用意するために

野球少年の話に戻ります。彼は確かに能力が高い半面、普段の練習態度やチームワークを乱す行動がたびたび見受けられました。それを見た監督は、彼を試合で使わなかったのです。これは日々のセールス活動でも同じことが起こり得ます。

どんなに商品知識を身に付けても、素晴らしいセールストークを身に付けたとしても、お客さまが聞いてくれなければ何の役にも立ちません。お客さまはセールスパーソンの「人」を見て、話を聞くか否かを判断しています。誰だって気の合わない人からは買い物をしたくないものですよね。高額商品ならその傾向はより顕著です。

覚えておきましょう。スキルやテクニックは基礎という土台の上に成り立ちます。お客さまに人として認められ、初めて提案を聞いてもらえる「場」を用意してもらえます。基礎こそが販売台数を伸ばす一番の源になるのです。

 

文:株式会社プログレス 江原忠宏

〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、2020年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、41歳。