損失の大きいダイハツショップは「ダイハツの看板を下ろす」可能性も
「ロッキー/ライズ」HVの生産再開で、7月には全車種が生産される

 ダイハツ工業の大規模な不正問題の発覚から半年が経過した。車両の安心・安全を確認し、生産を順次再開。再発防止策では「経営改革」「モノづくり・コトづくり改革」「風土改革」の3つに注力している。ただ、不正による国内全工場の停止は、仕入れ先や販売会社、業販店の事業にも大きく響いた。ダイハツが立ち直るためには、顧客からの信頼を取り戻すことが必要だが、そのためには、まずはダイハツ車を製造・販売する仕入れ先や販売会社、業販店などからの信頼回復が急務となる。

 現行車種と生産終了車種での大規模な認証不正が発覚したのは2023年12月20日。ダイハツはその直後に、国内すべての工場の生産と出荷を停止した。これにより、1月の国内販売台数は前年同月比62.6%減の2万295台の大幅減となった。ディーラー各社は在庫で対応していたものの、在庫が付き始めた2月は同82.0%減の9867台にまで落ち込んだ。その後も3月は同78.1%減、4月は同67.7%減と、徐々に生産は再開されているが、不正前のレベルにはまったく届いていない。

 ディーラーは新車を販売できない中、アフターサービスや中古車販売で収益の確保に努めた。あるダイハツディーラーの社長は「付き合いのある顧客は、ほとんどが(生産再開を)待ってくれた」と話すなど、顧客の「ダイハツ離れ」は想像よりは少ないとの見方もある。

 また、納期が伝えられるようになった4月ごろから、ほぼすべての車種で新規受注を再開。5月の新規受注台数は前年同月を10%程度上回っているという。ダイハツの武田裕介執行役員営業CS本部長は「販売現場に元気が戻りはじめた。各地で週末に開かれているイベントも盛況だ」と話す。

 供給側も、すでに滋賀工場(滋賀県竜王町)で生産する「ロッキー/ライズ」のハイブリッド車(HV)以外の生産は再開された。同モデルも7月17日には生産、18日から出荷を再開することが決まっている。これにより7カ月ぶりに全車種が生産されることになり、販売現場はさらに活気づくと期待される。

 ただ、全車種再開で、仕入れ先や販売会社、業販店の事業が不正以前の状況に戻るとは言い切れない。部品メーカーでは、扱う車種の部品によって回復度合いにばらつきがみられる。ある部品メーカーの社長は「モデル切り替わりのタイミングだったので(その車種の)生産が終了し、部品の生産も止まった。次期モデルのプロジェクトも止まってしまっている」と話す。こうした影響を受けている一部の仕入れ先に対してダイハツは、補償を継続しているようだ。

 販売会社への補償は3月までに業販店支援も含めて支払われたとみられるが、すべての販売会社・販売店に十分な補償金の支払いがされているわけではなさそうだ。

 今回の不正で特に影響を受けているのは、ダイハツが認定した販売店「ダイハツショップ」だ。複数のブランドを扱う業販店とは異なりダイハツ車のみを扱っており、業容も新車販売が中心となる。このダイハツショップから「補償が十分ではない」との声が上がっている。

 あるダイハツショップでは、不正による工場停止で車両供給が止まったため数千万円の赤字になったという。ダイハツからの補償を受け取ったものの、同社の社長は「人件費の足しにもならないくらい少ない」と嘆く。別のダイハツショップの社長からも「損失は大きい。補償は数十万円しかもらっていない」と話す。ダイハツは仕入れ先や販売会社への補償は実損分のみとの方針を示している。

 前出のダイハツショップの社長は、補償についてダイハツとの対話の場が設けられなければ「ダイハツの看板を下ろすことも考えている」という。ダイハツは全国津々浦々に販売網を持つことが強みだ。全国各地でダイハツユーザーへのサービスに漏れのない体制を整えており、今後はMaaS(サービスとしてのモビリティ)にもこの販売網を生かしたい考え。ただ、不正を機に業販店からの〝ダイハツ離れ〟が起きてしまうと、将来のビジネスにも影響が出てしまう可能性がある。

 トヨタ自動車の力を借りながら経営再建を進めるダイハツ。再発防止策に取り組みながら、仕入れ先や販売会社、業販店などと「ワンチーム」となる強固な関係を築き、再スタートを切れるかが問われている。

(藤原 稔里)