規定より厳しいとは言え、不正は型式指定制度の信頼を損なう(イメージ)

 トヨタ自動車やホンダなど自動車メーカー5社の認証プロセスで法規を逸脱した行為が判明した。対象車種は5社合わせて38車種、約500万台分にのぼる。トヨタを含め自動車メーカー3社、インポーター(輸入業者)ら14社で調査は続いており、不正事案が増える可能性もある。

 「やっちゃいけないことをやってしまった」―。ダイハツ工業や日野自動車などの認証不正を踏まえ、国土交通省が指示した型式認証全般にわたる社内調査の結果、自社でも不正が発覚したトヨタ自動車の豊田章男会長は3日の会見でこう語った。

 トヨタは、生産中の3車種を含む7車種で不正が発覚。「クラウン」など2車種は衝突性能試験で自然起爆ではなく、タイマーで起爆させたエアバッグのデータを申請時に使用した。ホンダで最も対象台数が多い不正は騒音試験で、規定外の重量で試験を実施していた。

 マツダは「ロードスターRF」など2車種の出力試験で、試験設備の吸気温度が異常に高温になるため、温度異常時に作動する点火時期補正機能を一部停止させた。このほか、スズキは制動試験時のブレーキ踏力が規定よりも大幅に弱く、測定値が基準値に迫ったため、余裕を持たせるために規定の踏力で見込まれる想定値を使用。ヤマハ発動機も試験器具の設計上、規定外のエンジン出力を使用し、騒音試験を実施するなどの不正があった。

 5社で発覚した不正は広範囲にわたる。あくまで自社試験だが、再試験の結果、保安基準は満たしており、安全性には問題がないという。

 正規の試験でも基準を満たすのになぜ不正が横行するのか。まず、開発の効率化を追求する中で新たな工数の発生を嫌った可能性がある。ホンダの騒音試験での不正では、規定よりも重い重量に設定していたことだが、試験実施後に設計が変わり、重くなっても再試験をしないで済むことが狙いだった。

 ただ、その根幹には「ワースト条件でやることが順法性に反するという認識がなかった」(三部敏宏社長)ことがある。今回、会見した3社の首脳は「お客さまにいい車を届けたい意識が勝り、より厳しい条件で開発している自負もあった」(トヨタの宮本眞志カスタマーファースト本部長)、「都合のいい技術的解釈といっていい」(マツダの毛籠勝弘社長)などと説明した。

 各社は再発防止策の徹底に乗り出す。トヨタは、年内にも「(不正などの)異常を検知できる仕組み」(豊田章男会長)の導入を目指すほか、ホンダは来年度内に一部の認証プロセスで人の裁量が介在しないような工夫を施す。マツダは、試験条件を安定的に満たすための試験設備の導入などで不正の再発を防ぐ。

 2016年の三菱自動車の燃費不正に始まり、日産自動車やスバル、日野、ダイハツ、そして今回の5社へと続く自動車業界の不正の連鎖。業界全体に広がった不正に「制度上の課題」(関係者)を指摘する声も出ている。

 トヨタによると、企画から生産準備までの全ての認証業務のプロセスは約1年ものリードタイムがある。認証プロセスの「全体像を把握している人は自動車業界に1人もいない」と豊田会長は語る。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展に伴い、認証業務の複雑さも増す。時代に合った認証制度のあり方の議論も必要だろう。

 しかし、制度をいくら時代に合わせても順法意識が欠如していれば不正は起きるし、規定より厳しく試験しても制度の信頼は大きく揺らぐ。本来の強みである品質の高さと効率の追求で日本の自動車メーカーの競争力を高めていくには「基準を十分に満たしているから安全だろう」というコンプライアンスの〝歪み〟を是正した上で、国際調和も念頭に、認証制度のあり方に向けた議論を官民で深めていく必要がある。

(水鳥 友哉)