サプライヤーで進む意識変革

 日産が下請法違反で再発防止の勧告を受けたのは資本金3億円以下の部品メーカーに対する一方的な部品納入価格の減額についてだ。一部の関係者は日産のこうした減額要請は30年前から常態化していたと指摘するが、大企業のティア1に対する減額要請は日産に限らず、多くの自動車メーカーが行ってきたという。原材料価格やエネルギーコスト、人件費などの上昇が収益を圧迫している現在、自動車メーカー各社は手控えているに過ぎない。

 10年ほど前、日系部品メーカーによるエンジン部品やタイヤ、電装品、ガラスなどの価格カルテルが相次いで発覚し、当局が独占禁止法違反で摘発した。これらは自動車メーカーの強過ぎる価格交渉力にサプライヤーが抵抗するためだったのかもしれない。巨額の制裁金を課されたことやコンプライアンス重視の風潮もあって、こうした違法行為が表面化することはなくなり、自動車メーカーが部品納入価格の主導権を掌握している。

 自動車メーカーが政府の意向も汲んで部品納入価格に人件費上昇分まで加えることに前向きとなっている機運の高まりに、サプライヤー各社も自動車メーカーとの付き合い方を微妙に変えている。部品メーカーのある幹部は「以前だったら公取委の調査に対し、価格交渉に後ろ向きの自動車メーカーを名指しするサプライヤーはいなかったかもしれない」という。多くのサプライヤーが取引先を拡大、ケイレツの結びつきが緩やかになってきたこともあって、ピラミッドの下層に位置するサプライヤーが上からの「理不尽な要求」に反発の声を上げ始めた。

 日本の自動車メーカーもメガサプライヤーなどの海外部品メーカーとは納入前に契約した価格で取引している。原材料価格などが変動した場合に価格転嫁するルールもあらかじめ決まっており、期末に減額要請することはない。海外サプライヤーは、提示した価格が納得できなければ納入しないだけと割り切っている。海外自動車メーカーとの取引を通じてフェアな取引を知った日系サプライヤーが日本独特の商習慣に嫌気がさしているとの声もある。

 今月3日、斎藤健経済産業大臣は日本自動車工業会の片山正則会長をはじめとする自工会役員との会合で、日産の下請法違反に関して改めて「極めて遺憾」と述べた上で、中小企業が賃上げの原資を確保するため、価格改定に丁寧に応じることを改めて要請した。取引適正化に向けて外堀は埋まりつつある。

 自動車メーカーとサプライヤーはケイレツ取引先との関係を維持・強化するため、株式を持ち合ってきた。しかし、こうした政策保有株は資本効率を低下させる要因となり「不健全な取引」につながると指摘する声もある。金融庁と東京証券取引所は、上場企業に対して政策保有株式を縮減することを求めており、自動車メーカー、サプライヤーで政策保有株式を見直し、一部を手放す動きもある。

 自動車メーカーを、ケイレツに連なるサプライヤーが下支えする構造が日本の自動車産業の強みになってきたことも事実。しかし、急激なインフレに伴う人件費やオペレーションコストの上昇への対応を迫られるサプライヤーは、ケイレツ外との取引を拡大していることもあって、主要納入先の自動車メーカーやティア1などの無理な要求に従っていては生き残れないと感じ始めている。自動車メーカーとサプライヤーは、日本独特の商習慣を見直し、公平で公正な取引関係を築く必要に迫られている。

(編集委員・野元 政宏)