損保大手4社による法人向け共同保険の事前価格調整(カルテル)問題で、金融庁は12月26日、4社に保険業法に基づく行政処分「業務改善命令」を出した。業務の改善計画について2024年1月31日までに中間的な検討状況を、同2月29日までに最終的な報告の提出を求めた。経営責任の明確化も求めた。複数の損保大手に一斉に行政処分が出されたのは2007年の「不払い問題」以来。

4社は東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険。金融庁は4社には少なくとも過去5年間について調査を指示。各社は全営業部店向けのアンケート調査は過去7年までさかのぼって実施した。

まとめた金融庁によると、少なくとも損保1社から報告があった価格調整は576の取引先(企業、団体、自治体など)であった。内訳は1社からの報告が458、2社以上からの報告が118で、合計576の取引先となった。今後さらに調査を続けるため、増減する可能性もあるという。

価格調整は、損保各社の企業営業部門を中心に広く行われていたという。幹事会社の立場やシェアなど現状を維持したいために価格調整を行ったのが50%、他社から打診があり応じたというのが39%あった。

価格調整の背景として、2010年代後半から自然災害の頻発・激甚化で業界全体として火災保険の大幅な赤字が常態化したことが最も大きな要因になっていたと分析している。火災保険料の値上げは企業との交渉が難しく、市場自体も広がらず新規契約も難しいことから、一定の保険料を維持するため各社で調整することになった。特に2017~20年に価格調整の件数が増えた。

管理職である課長以上が認識していなかったものは53%だった。一方、課長が認識していたのが35%、課長に加えて部長まで認識していたが6%あった。さらに課長の指示があったのが2%、課長が自ら関わっていたのが4%あった。前任者から書面または口頭での引継ぎがあったのが41%あった。違法または不適切と認識していたのも33%あった。

また、2000年代以降に損保の経営統合が続き、4社体制になったことで営業担当者同士がやりとりしやすくなったことも影響していた。

取引先の企業のグループの保険代理店が主導して価格調整を行うこともあった。金融庁としては「保険代理店にとっては保険料が高いと代理店に多くの手数料が入るためではないか」と推測している。このような(利益相反の)企業内代理店の位置づけが不明確であると指摘している。

損保が政策的に持っている保有株式の割合や、取引先の企業グループの商品(車やスーツ)やサービス(ホテルへの宿泊など)などを購入する本業支援が保険契約に影響することも多く、営業担当者が適正な競争の意識を失っていた可能性もある、としている。

金融庁は「行政処分を出して終わりではない。個社としてやってもらうこと、制度、監督のあり方を含めてしっかり考えていく。(保険契約をとるための)保険契約企業への損保の本業支援についても、どのようにしていくべきなのか考えていく」としている。

この問題については、公正取引委員会も12月19日に独禁法違反容疑で4社などに立ち入り検査を実施した。対象案件は6つの企業(グループ含む)・自治体・団体に対する共同保険など。東京都、京成電鉄、コスモエネルギーホールディングス・コスモ石油、JERA(奥田久栄社長、東京都中央区)、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC、高橋一郎理事長、東京都港区)、シャープ(呉柏勲社長、堺市堺区)に関わるものとなっている。

金融庁によると、個別案件の価格調整の違法性の判定については、最終的には公正取引委員会が行う、としている。

(小山田 研慈)

(2023/12/26修正)