自動車保険金の不正請求問題で経営が悪化しているビッグモーター(和泉伸二社長、東京都港区)が、外部資本の受け入れを有力な再建策に想定していることが関係者への取材で分かった。同社は単独再建を諦め、支援企業を探すことを銀行団には伝えていたが、具体的な方向性は判明していなかった。ただ、足元で業績が急激に落ち込んでいるとはいえ、同社は島根県を除き全国に店舗があるなど事業基盤は広い。このため、「顧客名簿」「最新設備」「日本人の整備士」の3点セットが、出資の呼び水になると業界関係者は指摘している。
「今起きている信用棄損(きそん)を改善しないといけない。そういった中で判断したのは外部の資本を入れることで、会社の組織、風土を一気に変えていきたい。そういうことをしている最中だ」―。和泉社長は15日、関東の店舗の社員に再建策について説明していた。
関連業界の大手企業の首脳は、ビッグモーターの資産として顧客名簿と最新設備、日本人の整備士を挙げる。店舗自体はリースが多いようだが、同社は急成長してきただけに整備工場などは新しい設備をそろえている拠点が目立つ。一時は買い取りや車両販売もかなりのボリュームがあり、管理顧客の情報も豊富だとみられる。また、高給をうたってきたことから、日本人の整備士も多く在籍していることが強みという。
ただ、同社の株式は兼重宏行前社長、息子の兼重宏一前副社長の資産管理会社「ビッグアセット」が100%を所有している。外部からの資本を受け入れる場合は、この株式の一部を支援企業に譲渡するか、第三者割当増資を行い、その分を引き受けてもらう形になりそう。支援企業側の出資比率によっては子会社化され、事実上の身売りになる場合も想定される。そうなれば創業家の兼重親子は、ビッグモーターの主導権を失うことになる。兼重親子の了解が得られているのかどうかは、明らかになっていない。
和泉社長は10月末までは支援企業の話を聴く方針だが、具体的な支援企業が現れているかどうかは判明していない。
支援企業側としては、経営の主導権を完全に握ることができ、さらに割安感がなければ出資に踏み切れないとみられる。ビッグモーターの経営陣も、支援企業が決まるまでには、時間がかかるとみている。
同社は10月1日付で、多摩店(東京都多摩市)に本社機能の大半を移管する。本社機能の一部は東神奈川店(横浜市神奈川区)にも移す。和泉社長の拠点となる「社長室」がどこに置かれるかはまだ公表できないとしているが、移転早々に難しい決断に迫られる可能性もありそうだ。
(小山田 研慈)