EVセダン初の防弾仕様車を発売
ガラス防弾性能は民間用最高レベル
車内はベース車同等の空間を実現
特殊鋼板製の車体、ランフラットタイヤを採用

 独BMWは、銃撃や爆弾に対する乗員保護性能を確保した防弾仕様車のセダンで世界初の電気自動車(EV)を開発したと発表した。高級セダン「7シリーズ」に設定した「i7プロテクション」で、年内にも欧州で納車を開始する。ドローン攻撃を想定して特殊装甲を装備するなどして、ドイツの防弾性能審査機関VPAMの基準で民間車両トップクラスとなる「VR9」をクリアした。昨年、全面改良した7シリーズの設計段階から防弾仕様を同時開発して、安全性と高級セダンに欠かせない快適性、走行性能を両立した。

 i7プロテクションは、同社が45年にわたる防弾仕様車の生産で培ったノウハウを結集して、高い防弾・耐爆性を実現した。アンダーボディーとルーフに装甲を追加した車体や、ライフル弾(7.62×6ミリメートルR弾)の貫通を防ぐガラスなどで構成する新開発の車体構造「BMWプロテクション・コア」を採用。車体骨格には、熱感プレスで成形した特殊鋼板を用いる。

 ガラスは民間用では最高クラスの「VPAM10」の防弾性能を持つ。ミシュラン製で20インチサイズのランフラットタイヤ「PAXシステム」を装着し、タイヤの空気が完全に抜けても時速80キロメートルで走行を継続できる。

 EVに加えて、同様な車体構造を持つV型8気筒ガソリンエンジン搭載車「7シリーズ・プロテクション」も用意した。銃弾で空けられた穴を自動的に修復する「自己密閉式燃料タンク」を装備して対テロ性を高めた。

 生産は同社グループの主力拠点、独ディンゴルフィング工場で熟練工が行う。防弾仕様車は、架装メーカーなどが完成車をベースに装備を後付けし製作するケースが多い。しかし、同社は設計段階からスペックを練りこんだ車両を自社工場で生産することで、防弾性能に加えて攻撃者からの逃走で重要な操縦安定性やハンドリングなどの向上、ベースモデルと同様な居住空間の確保が可能になったとする。

 外観はスポーツタイプ「Mスポーツパッケージ」に準じた仕様で一見、防弾車とはわかりにくい控えめのデザインとした。

 パワートレインおよび駆動系は、EVが前後輪にモーターを配置する四輪駆動とした。通常仕様の4WD・EV「i7 M70xドライブ」の部品・ユニットを多数活用した。最高出力は400キロワット、最大トルクは745ニュートンメートル。最高時速はリミッター作動で160キロメートル。発進から時速100キロメートルまでの加速時間は9.0秒。電力消費は走行100キロメートル当たり30.0キロワット時(WLTP、暫定値)で、防弾装備の追加などによる重量増の影響で通常仕様車に対し3割ほど悪化した

 ガソリン車は排気量4.4リットルのターボエンジンで、48ボルトマイルドハイブリッド機構を組み合わせた。最高出力は390キロワット、最大トルクは750ニュートンメートルとほぼEV同等。発進から時速100キロメートルまでの加速時間は6.6秒、最高時速は210キロメートル。走行100キロメートル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は355グラム(暫定値)となる。

 シャシーは重量増加を踏まえてセッティング。後輪操舵「インテグラル・アクティブ・ステアリング」を採用して操縦性と後席の快適性を向上した。さまざまな運転支援装置を搭載するが、プロドライバーの運転を前提としてサポートは情報提供と警告に重点を置き、運転制御への積極的な介入は行わないようにした。駐車アシスタント用のパーキングビュー、パノラマビューなどのカメラを利用して車両周辺状況が確認できる。車載基幹ソフト(OS)は「BMWオペレーティングシステム8.5」を採用。ドライバーが直感的な操作で情報を入手できる。

 防弾装備で重くなったドアの開閉をアシストするモーターを備える。また室内のボタン操作でドアを自動で閉じられる。スピーカー28個、出力1256ワットのサラウンド・サウンドシステムを標準化した。

 車両の提供のみならず、防弾車のドライバーに必要な運転技術や、テロ対応など戦術的なスキルを専門家が指導するトレーニングコースを用意した。

 新型防弾仕様車は9月に独ミュンヘンで開催される「IAAモビリティ2023」で一般公開し受注を本格化する。防弾EVは欧州限定で販売。同社が電動防弾車を発表するのは、2021年の燃料電池車のコンセプトカー「コンセプトiX5ハイドロジェン・プロテクションVR6」に続くものとなる。