有人月面探査車「ルナクルーザー」

 トヨタ自動車は21日、開発中の有人月面探査車「ルナクルーザー」に再生型燃料電池(RFC)を採用することを明らかにした。生活や車両の移動に必要なエネルギーや酸素を自給できるようにする。小型・軽量なRFCは地球上でも離島や災害時での活用が期待できるという。トヨタは月面探査車の開発技術を、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)や社会課題の解決に生かす考えだ。

 東京都文京区の東京本社で月面探査車の開発状況について説明会を開いた。トヨタは2019年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究協定を締結。29年に打ち上げを予定する「有人与圧ローバ」としてルナクルーザーの開発を進めてきた。22年に共同研究を終え、現在は24年を想定する本体開発の開始に向けて先行開発中だ。

 月面探査車を実現する上で核となるのがRFCだ。月面探査車開発プロジェクト長の山下健氏は、RFCを採用する理由について「月面での探査を長期的安定的にやるためには現地で(エネルギーを)調達する必要がある。月面には氷があるのではないか言われていて、水を活用できれば地産地消が可能になる」と語った。

 月面は昼と夜が2週間周期で訪れる。昼の間に太陽光発電で水と酸素を製造し、夜間に燃料電池(FC)で電力を供給するシステムが必要になる。エネルギー循環が可能なRFCはリチウムイオン電池に比べて質量やサイズを小さくでき、マイクロバス約2台分に及ぶルナクルーザーの動力源に適しているという。

 月面を走行する上では、高い走破性能も求められる。クレーターや岩石だけでなく、地表は細かい粒子の砂「レゴリス」で覆われており、こうした環境に適応するタイヤや駆動制御技術の開発を進めている。気温マイナス170度で放射線が降り注ぐ月面ではゴム製品が使えない。このため、タイヤはブリヂストンが開発した金属製を使う。月面探査に求められる高い路面走破技術は、地球上でもより過酷な路面に対応できる技術として応用していく。

 ルナクルーザーでは、宇宙飛行士の運転負担を減らすため自動運転技術も導入する。地図やGPS(全地球測位システム)がない月面の悪路を自動走行するため「電波航法」や「スタートラッカー」など新たな技術に挑戦しているという。こうした技術は、災害時などの物資輸送にも役立てていく。

 ルナクルーザーには2人の宇宙飛行士が乗り込み、月面を約1カ月間、移動しながら生活することを想定した世界初のモビリティだ。このため、車内の快適性と安全な操作機能を実現するためのユーザーエクスペリエンス(UX)にもこだわる。約四畳半(13平方㍍)の狭小空間を広く感じさせる空間設計、操作系の小型・軽量化を検証するため、実物大のモックアップを用いた研究を進めている。

 月面探査車の開発には他社との協業も欠かせない。三菱重工業が開発し、24年にも打ち上げる月極域探査機「LUPEXローバ」の開発成果もルナクルーザーにフィードバックする。山下プロジェクト長は「協業各社との連携により、自動車産業と宇宙産業の技術を融合しチャレンジしていきたい」と語った。

 月面有人探査は、米国が主導する「アルテミス」という包括プログラムがあり、日本も参加する。「アポロ計画」以来、およそ50年ぶりに月に人を送り込み、月面での持続的な活動を計画する。月面探査の拡大には走破能力が高い有人与圧ローバが欠かせず、ルナクルーザーはこうした国際的な計画において中心的な役割を担う。