タイヤの空気圧管理自体は法律で義務付けられていないが……(写真はイメージ)

 タイヤメーカー各社がタイヤ空気圧管理システム(TPMS)などを活用し、タイヤの状態を常に管理することで交通事故の防止や点検・管理の効率化に向けた仕組みの構築を急いでいる。すでに各メーカーは運送事業者やレンタカー事業者などと組み、本格的な実用化に向けた実証実験を重ねている。将来、こうした取り組みが広がっていけば、ユーザーとともに、タイヤメーカー各社やその販売店がタイヤの空気圧管理を担うことになりそうだ。

 ここ数年、タイヤメーカー各社は事業車両向けを中心に実証実験を行っている。例えば横浜ゴムは2022年5月からタクシー会社2社、23年3月からバス会社の協力を得てタイヤ空気圧の遠隔監視システムの実験を進めている。住友ゴム工業も新出光のグループ会社であるイデックスオート・ジャパン(髙田敏道社長、福岡市博多区)などと、空気圧を管理するソリューションの実証を北海道と九州で実施している。

 これらの実証実験では、空気圧などタイヤの状態をデータとして蓄積。それを基に適切な点検や交換、走行中のパンクなどによる事故の防止、タイヤ管理の業務効率化などに役立てている。住友ゴム工業は成果として、①空気圧点検の時間の短縮②スタッフの負担の軽減③トラブルの防止―を挙げる。①は点検をエアゲージからTPMSに変えたことで、1台の点検時間を約2分間短縮し、20秒程度にした。③では徐々に空気圧が低下する「スローパンクチャー」の発生を4台で未然に防いだ。

 名古屋市内のタイヤ販売店では、日本ミシュランタイヤが展開するデジタルソリューション「ミシュランタイヤケア」によって、1日程度かかっていた顧客のタイヤの点検とそのリポート作成が半日程度に短縮できたという。

 また、タイヤの再利用にもこれらのデータが生きる。横浜ゴムは同社のTPMS「HiTES4(ハイテスフォー)」とタイヤ・マネジメント・システム(TMS)と連動させ、摩耗したトラック・バス用のタイヤについて、リトレッド(更生)タイヤとして使用可能かどうかを判断する指標づくりに取り組んでいる。

 こうした技術の普及が進めば、将来的にタイヤメーカーや販売店が、ユーザーの空気圧の管理に大きくかかわる可能性も高い。住友ゴム工業の担当者は「機械で空気圧をしっかり管理し、異常があれば、販売店やサービス拠点、管理会社などに入庫していく方向になるのではないか」と指摘する。横浜ゴムの担当者も「販売会社やメーカーに任せる流れが来るのではないか」とみている。

 この流れはさらに加速しそうだ。日本ミシュランタイヤは、無線通信による個体管理を行う「RFID」のタグを取り扱うタイヤに装着。出荷から販売、リサイクルまでの履歴を1本単位で把握する取り組みを進める。23年度中にはトラック向けタイヤのすべてにRFIDを取り付ける計画だ。住友ゴム工業もタイヤの空気圧や摩耗、路面の状態などを感知して通知する技術「センシングコア」を活用し、25年以降にタイヤの総合メンテナンスサービスの提供を開始したい考えだ。

 欧州などと異なり、日本ではタイヤの空気圧管理は法律で義務付けられていない。しかし、「風向きが変わってきた」(横浜ゴム)のは間違いない。今後もさまざまな試験や実験によるデータの積み重ねと技術革新が、それを後押しする。

 ◆月刊「整備戦略」2023年6月号で特集「〝足元〟を管理する」を掲載します。