東京・代官山にあるテスラのスーパーチャージャー。左奥の囲いの中に本体が分離されている
静岡県沼津市(新東名高速)にあるe-モビリティパワー最高出力の急速充電器。横に消火器がある

 電気自動車(EV)の急速充電器の規制緩和が進みつつある。火災予防条例(消防は自治事務)による事実上の出力上限は10月から撤廃される。政府の規制改革の論議が追い風になっている。ただ、電気事業法の面からは、まだやりにくさが残る。国内の充電事業者は「高圧化」に備えながらも様子見の状況だ。強力な急速充電器に対応できる駆動用電池を持つEVがまだ国内では少ないこともある。

 出力200キロワット超の急速充電器はこれまで「変電設備」扱いで人の出入りなどの制約があった。事実上の上限の一つとみなされていたが、これがなくなる。消防法の改正省令が2月に交付され10月1日に施行される。これに合わせるため、9月末までに各自治体ごとに火災予防条例を改正する。

 また、急速充電器の安全対策などで各消防本部ごとに判断が分かれることがあった。これについても消防庁は指針となる条例(例)の解釈統一の通知を2月に出した。同庁の調べで、2009~21年で急速充電器の火災は確認されていないことも根拠となった。

 「消防庁は協力的だった。感謝している」と国内の充電事業者は口をそろえる。

 この背景にはテスラの動きがあった。内閣府主導の規制改革会議を通じて提案が出された。規制改革会議は事業者からの提案を受けて毎年各省庁と議論するオープンなシステム。これを利用した。

 テスラはすでに、国内では最高出力の250キロワットの急速充電器「スーパーチャージャー」を東京・代官山など国内68カ所、328基(3月末)設置する。10月の出力上限撤廃前にフライングしていたのだろうか。

 からくりはこうだ。テスラの充電器は「分離型」というシステム。変電機能がある本体は少し離れた所に置き、人が入れないように柵で囲う。ここから充電コネクターがある「ポスト」まで地下ケーブルでつなぐ。変電設備と充電器が一緒の「一体型」と違って規制にかからない。短期間で独自の充電網をつくりあげた裏には、日本の制度を研究して各地の消防本部と交渉したしたたかさがあった。同時並行で規制緩和も求めていた。

 国内の充電事業のトップは東京電力系で自動車メーカー各社も出資するe―モビリティパワー(四ツ柳尚子社長、東京都港区)。充電器は全国に2万口(22年10月末)。急速充電器は約7500口で全国の約9割を占める。

 同社の急速充電器の最大出力は150キロワットだ。東名高速道路(新東名含む)の駿河湾沼津と浜松の両サービスエリア上下線に4カ所ある。同社は今後急速充電の設置に専念していく方針を示しているが、150キロワットについては「EVの普及状況をみて検討していく」としている。

 今年の夏から都内10カ所に150キロワットの急速充電器を設置する予定のパワーエックス(伊藤正裕社長、東京都港区)。23年に投入する設備は240キロワットまで出せる。今後普及するEVの状況をみながら対応していく方針という。

 規制緩和で充電器の高圧化が一気に進むように思われるが充電事業者は冷静だ。

 今後普及するEVの駆動用電池が、どれくらい受け入れ能力を持つのかがカギだからだ。車側に能力がないと駆動用電池を痛めるだけだという。

 電気事業法からみるとまだやりにくさもある。急速充電器の電圧は450ボルトが事実上の上限とみられている。同法の省令の「解釈」199条に450ボルト以下と書いてあるからだ。ただ、経済産業省によると、この「解釈」については省令と違って絶対守らなくてはならないものではなく、根拠がある安全対策の代替案を示すなどすれば「法的には450ボルト超も可能」という。この辺については、本格的にEVが普及してからの議論になりそうだ。

(小山田 研慈)