副室燃焼など次世代ICE技術の研究を続ける千葉大学の森吉・窪山研究室
副室燃焼など次世代ICE技術の研究を続ける千葉大学の森吉・窪山研究室

 カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)社会の実現に貢献しようと、内燃機関(ICE)部品メーカーが低燃費技術の開発に力を入れている。走行時に二酸化炭素(CO2)を排出するICEは環境対応の面からネガティブに見られがちだ。しかし、電気自動車(EV)が苦手とする高速道路での長距離移動や、ハイブリッド車(HV)の発電用など、活用のポテンシャルがあることも事実。ICE関連技術の研さんは今も続いている。

 脱炭素社会の実現に向け、欧米や中国では2030年以降、ICE車やHVの新車販売が規制される。他方、EVには充電インフラ不足やバッテリーの容量、希少金属のサプライチェーンといった課題が依然残る。次世代電池の実用化が待たれるが、車両価格も高く、新興国を含む全世界の自動車をEVに置き換えることは現実的ではない。脱炭素社会の実現にはICEの高効率化も欠かせない。

 ICE関連部品メーカーは環境対応に向けて、持ち前の技術力で開発に力を入れている。特に顕著なのが排熱を有効活用するターボチャージャーだ。国内大手の三菱重工エンジン&ターボチャージャ(MHIET)とIHIはICE用に加えて、シリーズハイブリッド車や水素燃料電池車(FCV)などに適したターボの開発を進めている。

 MHIETはアジアや米国市場を意識し、プラグインハイブリッド車(PHV)を含むHV用ターボの開発を強化する。特に中国でレンジエクステンダー付EVは「新エネルギー車(NEV)」に分類され、環境規制の対象外となるため、これに適した高効率ターボの開発に力を入れる。

 IHIも「HVは30年ごろにピークを迎え、その半数以上に過給機が付く」と読む。よりロスなく過給できる電動ターボ製品や、空気過剰率2・0を超える希薄燃焼(リーンバーン)を想定した技術の開発を進めている。

 エンジンバルブも高効率化へと進化が続く。キーデバイスは「中空バルブ」と「鏡面加工バルブ」だ。

 中空バルブは内部をくり抜き、金属ナトリウムを入れたもので、燃焼室の高熱で溶けたナトリウムがバルブ内部で上下に動くことで冷却し、異常燃焼(ノッキング)を防止する。鏡面加工バルブは燃焼室面を磨いて表面積を小さくし、ICE内の温度を逃がさず有効活用する。NITTANはすでに両製品を量産しており、フジオーゼックスも鏡面加工バルブの提案活動を進めている。

 ピストン周辺はICE全体の摩擦損失の約半分を占める。そのため、ピストンリングメーカーも表面処理や形状に工夫を凝らすことで対応している。ダイヤモンドライクカーボン(DLC)は潤滑性と耐摩耗性を維持する表面処理技術で、国内外の多くの車種への採用が進む。形状を上下非対称にし、摺動面の油膜を維持するTPRの「外周偏心バレル」などの技術もある。

 このほか、水噴射インジェクターやスパークプラグの細径化など、技術進化の可能性は枚挙にいとまがない。

 研究機関でもさらなるICEの高効率化に向けた研究が続く。千葉大学の森吉・窪山研究室では、リーンバーンを想定した「副室燃焼」の技術を研究している。副室内にガソリンから改質した水素を供給し、燃焼を促進する。課題だった窒素酸化物(NOx)の発生を抑える技術を開発し、実用化が待たれる技術の一つだ。

 脱炭素と一口に言っても、適切な動力源は使用環境によって大きく異なる。同大の森吉泰生教授は「EVもICEもフェアに比較をして、技術を競争しながら高めていけば良い」と提言する。各国のICE車販売規制は政策とも密接に絡んでおり、脱炭素社会の実現という大目標に向けてICEが担う役割も残るはず。普及が待たれる次世代液体燃料への対応もにらみながら、ICE業界は進化の歩みを続ける。

(中村 俊甫)