日本ピストンリング製のピストンリング。エンジンの熱効率向上や低燃費化に貢献する表面処理技術が特徴

 「ピストンリングは特殊。簡単には儲からない」(リケン・前川泰則社長)─ピストンリングなどのエンジン関連部品を主力とする大手サプライヤーのリケンと日本ピストンリングは持株方式で経営統合することで基本合意した。電気自動車(EV)シフトでエンジン関連部品事業の縮小が予想される中、あえてライバル関係にある同業同士が手を組むのは「(市場は縮小しても)エンジンはなくならない」(日ピス・高橋輝夫社長)と見ているためだ。経営統合で世界トップクラスのピストンリングメーカーの誕生となるが、縮小が見込まれる事業にこだわる両社の経営判断は吉と出るか凶と出るか。

 ピストンリングの世界市場は米国のテネコがトップで、2位がドイツのマーレとなっている。リケンの世界シェアは約2割、日ピスが1割となっており、両社が経営統合するとテネコとほぼ並ぶ世界トップクラスとなる。ピストンリングでは、日本にはTPRもあり、競争は激しい。EVシフトで事業の縮小は避けられない中、リケンと日ピスは経営統合することで、研究開発投資の効率化や、製品の相互供給、生産拠点の相互活用などによって事業の効率化を図る。日ピスの高橋社長は「内燃機関部品が将来減る中でも、両社が組めばシェアは増える」と強気だ。

 内燃機関部品を主力とするライバル同士でタッグを組むのは「eフューエルやバイオ燃料、水素など、内燃機関は残る。これらの部品を2社で開発する必要はない」(高橋社長)と、市場規模は縮小しても内燃機関は生き残ると見ているからだ。前川社長もライフサイクルアセスメントの観点からEVが環境対応車として適切なのか「冷静に見る必要がある。内燃機関のポテンシャルはまだまだある」と前向きだ。

 ただ、先行きに対する危機感は強い。内燃機関の「ピークアウトは2030年代前半と見ていたが、早まっている」と感じた。こうした中「一定の企業規模、プレゼンスが必要と感じた」というリケンの前川社長が昨年春頃、年齢が近く、ライバルながら親近感を持っていた高橋社長に呼びかけ、話はトントン拍子に進んだ。昨年夏には秘密保持契約を結んで水面下で交渉を続けた。

 両社の提携に背中を押したもう一つの理由が非自動車などの新規事業創出の難しさだ。日ピスは医療用の合金素材の開発などに取り組むが、実用化されていない。高橋社長は「新たな事業を初めて10年だが、医療事業は花が咲くのにあと2年はかかる」という。縮小するエンジン関連部品事業を継続しながら、新規事業への投資を捻出するのは難しい。リケンは非エンジン部品事業を展開しており「ポテンシャルはかなりある。次世代のコアを育てていく」(前川社長)とするものの、この分野への投資を本格化するには、エンジン関連事業の収益力強化が必要だった。

 両社は老朽化した拠点の見直しなどを除いて工場の統合などは実施しない方針で、人員のリストラも実施しない。ただ、エンジン関連部品事業の人材を、新規事業に配置転換するなどの見直しは進める予定だ。

 EVシフトによってエンジンや燃料タンク、排気ガス関連の部品を主力とするサプライヤーは対応を迫られている。EVの普及によって、今後部品メーカーの再編が本格化する可能性が強い。

(野元 政宏、中村 俊甫)