アライアンスの見直しを発表する3社の首脳(2月6日)

 日産自動車とルノーが出資比率を見直すことで合意した。20年以上前、経営不振に陥った日産をルノーが約6千億円を投じて支援したことから始まったアライアンスは、「対等の精神」を謳(うた)いながらも、仏政府の意向を受けたルノーが経営統合を持ちかけるなど、いつの間にか変質した。資本上、有利な立場にあったルノーが、出資比率の見直しを受け入れた背景には、電気自動車(EV)シフトをはじめとする環境変化への対応がある。

 「日産が(ルノー株式の)15%を保有しているのに議決権がないのが許せないのは分からないではない。ルノーも43%を保有しているが日産に対して発言権がない。こうしたフラストレーションをなくし、通常の関係に戻す」(ルノーのジャンドミニク・スナール会長)─。両社はまず、ルノーが保有する日産株式の出資比率を43%から15%に引き下げることで合意した。これに伴い、日産が保有するルノー株式15%分の議決権が回復し、両社は資本面で対等な関係となる。

 ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)が「過去には過ちがあったかもしれないが、克服してフェアな関係を構築する」と言うように、ルノーと日産の関係は対等とは呼べないケースも多かった。事業面では、ルノーのフランス国内工場の稼働率を引き上げるため、日産の欧州市場向け小型車の生産をルノーの工場に移した。ルノーと共通化したプラットフォームを使う都合上、日産の新車の開発スケジュールに遅れが生じたケースや、日産がシリーズ式ハイブリッド「eパワー」に力を入れる矢先、ストロングハイブリッド車を開発するルノーが横やりを入れたこともあったという。

 特にカルロス・ゴーン元会長の退場後、日産社内でルノーに対する不満が高まった。ただ、ルノーが今回、資本面でも対等にすることに応じたのは「このままでは生き残れない」との危機感があったからだ。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ルノーはフランスに次いで2番目の販売台数規模のロシアからの撤退を余儀なくされ、主力市場がほぼ欧州になった。その欧州では、2035年に内燃機関車の新車販売が禁じられる見通しで、EV対応が生き残りの絶対条件だ。このため、EV専業の「アンペア(仮称)」を設立・上場させる計画も打ち出すが、事業拡大に向けてハードルとなるのが、日産との共同保有や、同社から供与されている知的財産(IP)をめぐる問題だ。

 ルノーは、EV関連事業を強化するためには、日産の協力が欠かせないと判断。日産がアンペアに最大15%出資することとし、IPに関しても「すべてのプロジェクトを進行できる体制を担保した」という。これを実現するため、資本関係を見直し「ルノー、日産、三菱自動車がそれぞれ自由に動ける体制にする」(デメオCEO)ことにした。

 ルノーはEVや自動運転、ソフトウエアが自動車の価値を主導するソフトウエア・デファインド・ビークルなどへの対応に向け、日産、三菱自だけに頼れないという事情もある。単に「規模」を追求するなら、自動車メーカー同士で組むことが有効だが、自動車技術が急速に進化する中、日産・ルノーがメルセデス・ベンツグループとの提携を解消したように、旧来の枠組みではシナジーを見いだしにくくなっている。

 「単独では生き残れない」(デメオCEO)というのは共通認識だが、幅広い企業との連携も欠かせない。アンペアには半導体メーカーのクアルコムが出資し、グーグルとも提携する予定だ。しかし、アライアンスの枠組みの中で日産や三菱自の了承をいちいち得ていては時間がかかる。ルノーは「機敏性と柔軟性を持って戦略を推進する」(同)ためにも、資本関係の見直しを受け入れた。

 アライアンスを「次のステップに移し、価値を最大化する」と語る日産の内田誠社長兼CEO。新しいアライアンスをベースに今後、詳細を詰める3社それぞれの成長戦略が注目される。

(編集委員・野元 政宏)