先端半導体の採用に慎重な自動車メーカー

 より高性能な次世代半導体を国内で調達できる準備も進む。経済産業省が主導し、トヨタ自動車やNTT、デンソーなど国内主要企業8社が出資するラピダスだ。1980年代後半には50%持っていた日本の半導体産業のシェアはすでに1割を切っている。ラピダスは、日本の半導体産業を再興するため、世界で戦える先端半導体を国内で受託製造するメーカーとなることを目指して発足した。2ナノメートルの先端半導体の開発に成功した米国のIBMとライセンス契約を結び、2020年代後半に2ナノメートルプロセスの量産技術確立を目指している。

 将来の自動車の競争力を左右する高性能なロジック半導体を国内で調達できる環境が整備される一方で、課題になるのが日本の自動車メーカーの半導体の調達戦略だ。すでに海外の自動車メーカーの一部は5ナノメートルや7ナノメートルといった、スマホ並みの半導体の次世代車への搭載を決めている。自動車技術の高度化で車載用半導体の搭載数は増加してシステムが複雑化している。これを避けるため、ECU(電子制御ユニット)などの統合が進むが、このためには処理能力の高い高性能半導体が必要になる。

 しかし、日本の自動車メーカーは、信頼性やコストなどの面から、先端半導体の採用に慎重な姿勢を崩していない。品質・コスト・供給体制を重視する従来の調達戦略では「新時代」の自動車へシフトするのに出遅れる懸念がある。OTAを活用してソフトウエアを無線通信でアップグレードし、既販車に新しい機能を追加するビジネスを展開するには、あらかじめオーバースペックの半導体を搭載しておくことが必要になるケースもある。

 部品調達の慣習もネックになる。デンソーの加藤良文経営役員・CTO(最高技術責任者)は「半導体と自動車は商習慣が異なる。これを変えていく必要がある」と指摘する。自動車の場合、一度採用した半導体は補修品を含めて10~20年間必要で、これがレガシー半導体を多用することにつながっている面がある。半導体の世代交代が2年程度で進むことを考えると、今のあり方はサプライヤーへの負担が大きい。同じ性能を生み出せるなら、そのデバイスに搭載している半導体の世代交代を自動車メーカーが柔軟に認めれば、車載半導体の世代交代も進みやすくなる。

 さらに、これが実現すれば、現在の半導体不足問題の解消の助けにもなる。自動車メーカー各社が半導体不足などで依然として減産している中、多くの車載半導体を搭載するEV専業のテスラの22年の販売台数は前年比40%増の131万台と過去最高を更新した。テスラは車載半導体を自社で設計しており、不足している半導体があっても、短期間で汎用品を使って代替できる能力を持っていることが奏功した。半導体に関するノウハウを持つテスラは、他社に先行して線幅1桁台の高性能半導体を採用していることも半導体不足の影響を最小限にとどめている理由だ。

 クアルコムがルノーのEV専用会社への出資を決め、先進的なEV開発を目指しているソニー・ホンダモビリティとも提携するなど、自動車メーカー側も半導体が次世代車の差別化する上でのキーになることは理解し、ティア1(1次部品メーカー)並みに関係を深めている。日本国内では先端半導体を調達する環境も整備される。今後、世代交代の間隔も設計・開発、製造のリードタイムも異なる半導体を、どう自動車に生かしていくのかが、自動車メーカーの競争の軸になる可能性がある。JITを強みに成長してきた日本の自動車メーカーだが、半導体の調達戦略の大胆な見直しを迫られる。

(編集委員 野元政宏)