「ARC」では研修の場で交流し信頼関係の構築を図っている

 自動車整備業界では2020年4月施行の「特定整備」制度を機に、「地域連携」の議論が深まっている。認証に必要な電子制御装置整備の資格取得はできても、その先のエーミング(機能調整)作業はメーカー・車種ごとに方法や必要機材が異なるため、専業工場がオールマイティーにこなすのは難しいためだ。そこで対応できない車両の作業を補完し合えれば、設備投資や技術情報の入手、人の教育などの労力も分担でき、お互いにメリットを享受できる。

 日本自動車整備振興会連合会の木場宣行専務理事は「今までライバル同士だった隣の工場と手を組んで『地域連携』の形で作業を分担する、あるいは協業化で少ない人員で運営して効率を上げるといった方法もこれからは必要になってくる」と指摘している。少子高齢化や保有台数の頭打ちという市場の減少が予想される中、連携の必要性はエーミング作業の対応だけでなく、人材確保、事業承継、ロードサービス業務の集約など各分野で有効といえる。

 連携は地域や業界団体の中で進められたり、所属団体に関係なく広く参画を募りネットワークを構築したりとケースはさまざまある。しかしながら、メリットが多いと思われる連携の形でも、ライバル同士の連携や協業は簡単にはいかず、スタートしても長く続かないケースがあるという。

 ジェイシーレゾナンスの松永博司社長は「地域連携には信頼関係が必要」とし、同社が立ち上げた整備作業の受発注サービスネットワーク「ARC」の展開に際し、全国5カ所の研修施設で経営者や整備士、フロントスタッフ同士の交流を図っている。相手にネガティブなイメージがあると、例え仕組みが良くても連携が進まないことを懸念しての施策だ。一方、夜間のロードサービス業務を4社で協業するRSネットワークを設立した松村真也社長は「連携の範囲を一番負担となっていた夜の業務に限定したことで、普段はライバル同士でもウインウインになっている」とし、メリットを享受できている様子を述べている。

 TMコーポレーションの室谷眞一社長は「自動車メーカーでも自動運転や電気自動車の開発で他メーカーと組んでいるが、産業が右肩上がりの時代はなかったこと。整備業界でも競合同士が連携するケースがもっと必要になる」と話している。今後、自動車整備市場が縮小に向かっていく中で、何らかの連携を検討する必要性は高まっており、今まで考えられなかった企業、分野での連携も視野に模索していく時期に来ていると言える。

 月刊「整備戦略」2022年6月号で特集「地域連携で課題を乗り越える」を掲載します。