車座対話に合わせ整備工場を視察する岸田首相

 安全かつ安心な自動車社会の構築に不可欠な整備士。社会的意義が高い一方で、人手不足や他産業に比べて見劣りする待遇など構造的な問題を抱える。この解決に向け、政府が本腰を入れ始めた。岸田文雄首相は1月、現場の声を直接聞く「車座対話」の相手に整備士を選んだ。都内の整備工場を訪れた岸田首相は整備士が直面している厳しい現状を目の当たりにし、「頑張っている皆さんの処遇改善を考えていく」と表明。国のトップの発言は重く、改めて整備士問題にスポットが当たった。これをチャンスに長年の課題解決に導けるか、行政や整備業界の一手に注目が集まっている。

 100年に1度とも言われる変革期に入った自動車産業。世界的な脱炭素化の流れとも重なり、今後、電動車への急速なシフトが進むとみられる。将来の本格的な自動運転に向けて、先進運転支援システム(ADAS)をはじめ、車載技術の高度化も加速度を増している。しかし、いかに技術が進化しようとも、安全にクルマを走らせるには適切な整備が不可欠となる。このため、整備士は新たな知識や技能を習得し続けていく必要があり、次代に向けて整備士の人材育成は喫緊の課題の一つとなっている。

 しかし、実態は極めて厳しい。昨年12月17日の参院予算委員会で、国民民主党の浜口誠参院議員が「自動車整備士の声を聞いていただきたい」と、政府に訴えた。整備士に課せられる業務が複雑かつ大量となる一方、整備士のなり手が減少傾向にある。このため、十分な人員の確保がままならない整備工場も出ており、一人ひとりの負荷が重くなり続けているためだ。

 こうした傾向は数字からも裏付けられる。厚生労働省によると、2021年度の整備業の有効求人倍率は4・58倍だった。全職種平均の1・13倍と大きく乖離する水準となっている。十分な求人があるものの、整備士が集まらない深刻な現状を表している。

 新たな人材の確保も黄色信号が灯っている。日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)が文部科学省の「学校基本調査」を基に分析した結果をみると、専門学校など自動車整備士の養成課程がある教育機関の定員数は20年度で1万2195人。このうち実際に入学したのは8168人と、約4千人もの定員割れを喫した。

 整備専門学校などを所管する文科省では「入学者数だけでなく、(その後の)在籍数も伸び悩んでいる」と、強い危機感を示す。少子高齢化によって18歳人口が減少している。そもそもパイが少なくなっている中で、「デジタル化の流れもあり、IT業界に若手人材が流れている」ことも追い打ちをかけている。整備士を目指す学生が減ったことにより、整備専門学校(中卒で入学できる専修高等課程含む)は11年度から21年度の間に2校減って87校となるなど、学びの場の維持にも暗雲が濃くなっている。

 岸田首相は「新たな成長への投資であるという発想を持ってほしい」と、整備業界の待遇改善に向けた取り組みを自動車産業全体に呼びかける。早期に効果的な対策が講じられなければ、政府が社会機能を維持するために必要な〝エッセンシャルワーカー〟に位置づけている整備業の地盤沈下が加速する可能性が高い。